第四十一話、ラッカ
「そこまで、レンマ王は、奴隷売買をお憎みか?」
トライヴ提督は、近づいてくる巨大な飛行艦を見ながら言った。
船巫女を乗せた、砂上用飛行艇の開発。
カティサーク工廠を通して、アールヴへ潜砂艦や、新造戦艦の技術供与。
遂に直接、新造の飛行艇空母まで派遣してきた。
「ひいいいい」
「なんだあれは」
「巨大な船が空をっ」
『ヤタノカガミ』に負けず劣らずの巨艦が、空からゆっくりと近づいて来る。
砂嵐がある為、砂漠の民は、空を飛ぶものになじみがない。
飛竜ですら、見たことがないものもいる。
天が落ちてきた様な光景に、パニックを起こす兵が出てきた。
「まずいっ」
「ヒッコウテイが沢山来ました」
「燃やされてますっ」
ドウケンクラスの艦隊のからの無線だ。、
黒い煙が大量に上がっている。
「ドウケンクラス、一時撤退しろっ」
トライヴが、命令を出す。
「ええいっ、うろたえるなっ」
「全砲門、一斉射撃っ」
重戦艦、五艦に命令を出した。
ドドドドドドオン
ドドオオン
ラムアタックで突っ込んだ防壁に、至近距離で大砲を浴びせる。
第一防壁の半分が粉砕された。
オオオオオオ
ヤッタ、ヤッタ
うろたえていた兵が、湧き上がった。
◆
飛行艇空母”キサラギ“は、二枚目の防壁の上空まで前進していた。
ドドドドドドオン
ドドオオン
「第一防壁が~」
メルル―テ大佐が、艦長席に座っている。
「どうします」
”キサラギ“に大砲などは、装備されていない。
「ん~」
「こちら艦長~、これからかなり無茶なことをする~」
「全艦、対ショック姿勢、吹き飛びそうなものは固定~」
「艦を180度回頭~」
「装甲板下げ~」
艦体の横につけられた、可動式の装甲板が下がる。
艦体を守るようになった。
「サイドスラスター吹かせ~」
地上の重戦艦の上空に横を向いたまま移動。
十字に重なった。
メルル―テがおもむろに手を上げた。
◆
「バリスタ、打てっ」
トライヴが大声を出す。
何を考えている?
横を向いて近寄ってくる艦を見た。
上空で重なった。
「!!」
「まさかっっ、全艦後退っ、急げええ」
ヒュウウウウウ
巨大な飛行艦がそのまま落ちてきた。
◆
「前後、気嚢(風船)から、ヘリウムガス強制排出~」
「ローター反転~」
メルル―テが腕を下ろす。
「“キサラギ”、緊急降下~」
「体当たり~」
メルル―テは、巨大な飛行艦を、地面にたたき落とした。
ズドオオオオン
落ちた場所に、巨大な砂の柱ができた。
ムツキ級飛竜空母の血を引く、空母”キサラギ“の防御力は、極めて高い。
レンマ王国、国立工廠伝統の、シタデル構造は極めて堅牢だ。
「被害報告急げ~」
「気嚢のヘリウムガス充填~」
「“キサラギ”上昇~」
メルル―テが命令を出した。
「各部、被害なしっ」
砂地がクッションになったとはいえ、防御力の高さが際立った結果となった。
「え~と」
「メルル―テ大佐ってどういう人?」
イオリが、後席のファラクに聞く。
飛行艇”イザナミ“で偵察中だ。
目の前で、巨大な飛行艦が、敵艦の上に、落ちた。
ファラクは、メルル―テと面識がある。
「う~ん、シルルート空軍の開設に携わった、教導部隊隊長だったはず」
「結婚して、レンマ王国に来るまでは、近衛隊でウルトラエースだったらしいわ」
「シルルートの、クーデターの解決にも貢献したらしいし」
ファラクが言う。
「…………」
イオリは、とりあえず、すごい人ということが分かった。
◆
ゲホゲホ
”ヤタノカガミ“のブリッジだ。
巨大な飛行艦が落ちてきた、衝撃にクルーたちは床に倒れている。
「アイーシャ、無事か?」
トライヴが周りを見渡す。
「大丈夫~」
アイーシャが、立ち上がってトライブの方に来た。
「被害報告っ」
伝声管に言った。
ブリッジの中の照明が落ちて暗い。
前部が砂にのめり込んでいた。
ブリッジの窓ガラスに、砂の中が見える。
「艦体は無事です」
「大砲、バリスタの被害甚大」
「一番マスト、折られました」
”ヤタノカガミ“は特に、太いマストを使っている。
その太いマストが折られた。
ブリッジの照明が戻る。
「電源、回復しました」
「くっ、全艦隊に告げる」
「補給所まで、撤退」
トライヴが、無線で命令した。
モンジョの艦隊が、バリスタを搭載してから、初めて戦線が後退した。
◆
モンジョ側の被害
ジンギクラス ”ヤタノカガミ“ 中破
ドウホコクラス 重戦艦 中破、二
ドウケンクラス 戦艦 大破、一
中破、二
アールヴ側の被害
アマツカミ級 巡洋艦 大破、一
中破、二
第一防壁、 大破
となった。




