第四十話、サンセン
巨大な飛行艦が、“マギノ”川を越える。
この川は、レンマ王国とヘタリナ王国の国境になっていた。
飛行艇空母“キサラギ”は、全速航行中である。
「アールヴの国境の都市“モント”を守らないと~」
「北の砂漠に出る航路が、モンジョの支配地になるわね~」
メルル―テが、艦長席に座って言った。
「うん、今やっと南の国で、奴隷売買を根絶できそうなのに」
「モンジョに取られたら、また復活しそうだよ」
イナバだ。
実際、そのためにカスマールがモンジョに行っている。
“エンバー家”を筆頭に、まだまだ奴隷売買に手を出そうという貴族はいた。
「レンマ王も、それを止めるために、空母“キサラギを派遣したんだよね」
メルル―テ達は、王の勅命を受けていた。
「“砂嵐”にだけは気を付けていこう~」
メルル―テが、艦長帽を被りなおした。
「ドワイト整備長、これは何ですか」
”キサラギ“の飛行艇格納庫だ。
飛行艇部隊の飛行隊長である、ヒイラギ中尉が聞いた。
小柄で、元気一杯な女性だ。
目の前に、二メトルくらいの筒状のものが、床に置かれていた。
「これはな、新型の焼夷爆弾じゃ」
「中には、点火剤と油が詰まっておる」
ドワーフの男性が答える。
「へええ」
「ま、落ちたところは火の海じゃの」
「砂漠の船は、マストと帆で動くんでしょう?」
ヒイラギだ。
「帆は、よく燃えそうじゃなあ」
「がはははは」
ドワイトが大声で笑った。
その後、飛行艇空母”キサラギ“は、ヘタリナ王国とアールヴの国境近くまで到着した。
砂漠地帯に入る。
「艦長、前方に砂嵐です」
「機関停止~」
「着陸して、錨を下ろせ〜」
「砂嵐が収まるまで待機~」
飛行艇空母、”キサラギ“は、都市”モント“の目と鼻の先まで来ていた。
◆
砂嵐が晴れた。
抜けるような快晴だ。
「しまったっ」
サザル防衛司令官は、大声を出した。
双眼鏡には、第一防壁の壁際まで移動した、モンジの“重戦艦”四艦が見える。
「砂嵐の中を移動して?」
参謀が呆然とした声を出した。
「ドウケンクラス戦艦、六艦が右から防壁を回って来てますっ」
今半円状に、モンジョ側の防壁しか浮上させていない。
「全艦、防壁を回り込んでくる戦艦に対応っ」
「出来る限り時間を稼いでくれ」
くっ、その間に第一防壁が破られるか
サザルが指示を出した。
◆
「ドウケンクラス戦艦、は回り込め」
トライブ提督だ。
”ヤタノカガミ“のブリッジにいる。
「アイーシャ、舞ってくれ」
トライヴが立ち上がった。
「うふふふ」
チュッ
アイーシャが、人差し指と中指を唇に当て、トライブに向かって差し出す。
ブリッジの中央にある、円形の踊り場の中央に立った。
シャラララララン
肉感的は踊り子の衣装をまとったアイーシャが舞い始める。
オオオオオオ
ブリッジのクルーから歓声が上がった。
誰からと言わず歌いだす。
砂の色した~♪
シャラン
大海を~♪
シャララン
帆立てて進む益荒男は~♪
シャラン
古の時を踏み越えて~♪
シャラララララン
我ら、モンジョは栄えたり~♪
「”ヤタノカガミ“、送風、躁砂、軽量の魔紋の励起率、120パーセントッ」
「はははははあ」
「二、三、四番艦は我に続けええ、吶喊っっ」
トライヴは腕を前に振り下ろした。
”ヤタノカガミ“を先頭に、モンジョの重戦艦四艦は、第一防壁にラムアタック。
バキバキバキイ
巨大な戦艦が、防壁に突き刺さった。
◆
「どうしても止めろお」
回り込んでくる敵艦隊を指差して、サザル司令が叫ぶ。
回り込まれて、港を破壊されれば、それでおしまいである。
「敵、ドウケンクラス、一艦、沈黙」
「味方、アマツカミ級、一番艦、中破」
「すぐ、中破した艦をすぐ下がらせろ」
ドドオン
ドドドオオオン
敵味方の艦が目で見える距離での、泥臭い殴り合いが始まった。
「アマツカミ級、三番艦、ラムアタックを受け大破っ」
「くっ」
ただでさえある戦力差が、さらに開いた。
まずいっ
サザル司令官がこぶしを握り締めた。
その時、
頭上を、五個の黒い影が通りすぎた。
「こちら、レンマ空軍飛行艇空母”キサラギ“所属」
「飛行艇、”ネコジャラシ“及び、”ゲッカビジン“四機」
「参戦しますっっ」
隊長機である”ネコジャラシ“に乗った、ヒイラギ中尉が元気一杯に言った。
「焼夷爆弾、投下っっ」
五機の飛行艇から、十発の焼夷爆弾が敵艦隊の頭上に落とされる。
敵艦隊は炎に包まれた。
都市に影を落としながら、飛行艇空母”キサラギ“が、壊されようとしている第一防壁へ近づいていった。




