第三十七話、バリスタ
「若造めえ、一艦や二艦、犠牲にして前へ進めえ」
ドウホコクラス重戦艦、三番艦のブリッジで、”イッザウ”が大声を出した。
イッザウは五十代前半。
トライヴ提督は、二十代後半だ。
これだから、南の奴らはっ
トライヴ提督は、“ヘタリナ王国”出身である。
あれから、モンジョ古王国の艦隊は、二度前進して二度引き返していた。
アールヴ側の、大砲の集中砲火を受けてである。
モンジョ側の国境都市”ミズラ”だ。
都市の周辺では、左右一対の修理船が、戦艦の折れたマストを交換している。
巨大なクレーンを備えた平たい船だ。
二船が、船を左右に挟み、クレーンでマストを立てていた。
その横を、補給艦が二艦、国境の都市”ミズラ”に入港した。
「やっと、きたか」
トライヴ提督が、入港してきた補給艦を見ながら言った。
飛行艇対策に、あるものを大量に乗せている。
「すぐに改修しろっ」
“タタラバ造船所”の船はモジュール式だ。
サイズごとの艦体の造りは、共通である。
艦の“表面構造物”で違いを出した。
戦艦は大砲や武装、キャラバン船は貨物庫などである。
その利点が、最大限生かされる時が来た。
◆
アールヴの士気は高い。
「三度、追い払えた」
「モンジョの艦隊なんて大したことないなあ」
「いつでもこいっ」
至るところで盛り上がっている。
「このままで終わると思いますか?」
参謀が、サザル司令官に聞いた。
「いや」
「後の二回の前進は、敵の被害は、ほぼないと言ってもいい」
サザルが腕を組んだ。
◆
「はい」
フィッダが、クルックにコーヒーを渡す。
「ありがとう」
クルックが答えた。
「ほらほら、イオリも休憩にしましょ」
ファラクが、飛行艇”イザナギ”の整備をしているイオリに声をかける。
「わかった」
“イザナギ”の機体の影から、イオリが答えた。
”モント”の港の開けた広場だ。
飛行艇”イザナミ”と”イザナギ”が、並んで着陸している。
近くに、潜砂艦”アマテラス”も停泊していた。
”イザナミ”は、植物の蔦のような銀色の魔紋で、女性的。
”イザナギ”は、目の形をした黒に近い錆びた銀色の魔紋で、男性的だ。
イオリたち四人が、並んでコーヒーを飲んでいる。
「もう、慣れた?」
ファラクがフィッダに声をかける。
ファラクは、黒い髪と青い目、褐色の肌。
フィッダは、銀髪と紅い目、白い肌が対称的だ。
「ん、大分」
フィッダが言った。
「しかし、この二回はあっさり引き返したな」
クルックだ。
飛行艇で艦隊の動きを、一番見ている四人だ。
「ふーむ、一度、一番大きい船の司令官みたいなのと目が合ったような」
イオリだ。
「三本マストの奴だな、俺もだ」
クルックが答える。
様子を見られている?
ウウウウウ―
少し高めのサイレンが、都市に鳴り響く。
「敵艦が動いた、全艦戦闘態勢っ」
広域放送が都市に響き渡る。
ズズズズズ
潜砂艦『アマテラス』が、サイドスラスターを吹かし、港から離れ始めた。
「行くぞっ」
クルックが、フィッダに言った。
「うんっ」
二人は、飛行艇、”イザナギ”(元”ヨモツヒラサカ”)に飛び乗った。
「気を付けてっ」
「行ってらっしゃい」
イオリとファラクが、手を振りながら大声で言った。
シュパアアア
飛行艇”イザナギ”は、可変翼を開きながら垂直上昇、敵艦の方へ飛び去った。
◆
フィッダは、飛行艇”イザナギ”(元”ヨモツヒラサカ”)の目を通して遠くを見ることが出来た。
防壁を越えて、敵の艦隊が見えてくる。
フィッダの頭の中に、艦隊の姿が浮かぶ。
「クルックッ」
フィッダが声を出した。
「どうしたっ」
クルックが、聞いた。
「バリスタよ」
「艦に、バリスタがたくさんつけられてるっ」
全ての艦にバリスタが、大量につけられていた。
まるで、”砂漠ハリネズミ”のように見えた。
飛行艇”イザナギ”が艦隊に近づく。
「むっ」
「一度、上空を飛び越えてみるっ」
クルックが、可変翼を閉めながら、スロットルを最大まで開けた。
艦隊の頭上を高速で飛びこえる。
ババババシュッ
大量のバリスタの矢が飛んできた。
少しでも近づくとバリスタの矢が、雨のように飛んでくる。
「測距の邪魔をする気か」
落ち着いて測距ができない。
アールヴ側の艦砲射撃の精度が格段に落ちた。
モンジョの艦隊は引き返さない。
じわじわと前進を、許すことになった。




