第三十五話、カイセンゼンヤ
天気は良いが、これから砂嵐の季節に入る。
潜砂艦“アマテラス”とローズキャラバンは、“アールヴ”に帰っていた。
国境の都市“モント”が見えてきた。
「もう、防壁を浮上させているのか」
エルザードがつぶやいた。
都市の周りに、砂上船の二倍くらいの高さの防壁が見えた。
都市の周りを囲むように、半円状にそそり立っている。
防壁は、細かく分かれており、いつもは砂の中に沈めている。
二船は、防壁を大きく回り込むように都市に近づいた。
防壁は三重になっていた。
二船は都市に入港する。
◆
“アマテラス”艦内の会議室だ。
主要な人物が集まっている。
「どうやら、モンジョとの開戦は避けられないようだな」
砂漠地帯の南には、アイール山脈が横たわり“アールヴ”の国境線近くまで伸びている。
モンジョが、ヘタリナ王国や、レンマ王国などの南の国に行くには、アイール山脈を直接越えるか、“アールヴ”の都市“モント”を通らなければならなかった。
モンジョに取って“モント”は南の国に行く障壁なのである。
「モンジョがしびれを切らしたなあ」
エルザードが、言った。
最近の関係悪化に、“アールヴ”はモンジョの船の通行料を上げた。
「で、“アマテラス”に命令が出た」
「今、都市、“ミズラ”にモンジョの艦船が続々と集まっているらしい」
「潜砂艦“アマテラス”の隠密性と、飛行艇を生かしての偵察任務だ」
エルザードが、腕を組んだ。
「それと、クルック君と“ヨモツヒラサカ”、いや“イザナギ”は“アマテラス”に乗ってもらう」
モンジョの王都で起こったことは、アールヴ王にも説明した。
「わかりました」
クルックが答えた。
「それと、ローズキャラバンはこのまま都市にとどまってくれ」
「わかったよ」
砂漠では、“砂漠で拾ったものは拾い主のものである”、という不文律がある。
これは人間にも当てはまる。
砂漠は、過酷だ。
拾った人間分の水と食料の負担で、キャラバンが全滅することもあるのだ。
クルックと“ヨモツヒラサカ”は、ローズキャラバンが拾ったことにしていた。
事態が落ち着いてから話をするだろう。
「待ってくれ」
「フィッダはどうする」
クルックが大声で聞いた。
「……行くよ……」
「クルックと一緒に」
「多分、奴隷狩り(マンハンター)とオチホキャラバンもいるんでしょう」
フィッダがクルックを、じっと見つめた。
「……わかった……」
「必ず、俺がフィッダを守る」
クルックが小さく言った。
「協力感謝する」
フィッダは、軍に関係のない民間人だ。
エルザードが、フィッダに頭を下げた。
潜砂艦、“アマテラス”は偵察のため、都市“モント”を出港する。
今まで来た道を、またすぐに戻ることになった。
◆
青い月明かりが奇麗な夜だ。
砂漠の向こうに、国境の都市『ミズラ』の黒いシルエットが見えた。
都市の周りには、船の窓から漏れていると思われる明かりが、沢山見える。
潜砂艦“アマテラス”は、都市の近くに浮上していた。
「“イザナミ”、出撃します」
「行ってきます」
イオリとファラクだ。
夜間偵察だ。
「気を付けて」
「くれぐれも、無理をしないように」
「了解」
シュパアア
イオリは、なるべく音を出さないように、“イザナミ”を“アマテラス”から離艦させた。
“イザナミ”で5分くらい飛ぶと、都市の上空まで来た。
可変翼を全開にし、ジェット炎をなるべく出さないように飛行する。
「しっかり見よう」
「うん」
二人は、艦船の大きさと数、補給物資の量などを、可能な限り確認した。
「んん、あれはなんだ?」
見張り台の見張りが、隣の同僚に言った。
「鳥か?」
「こんな夜中の、しかも砂嵐の季節に鳥なんかいるもんか」
「気のせいだよ」
同僚が答える。
「……そうだな」
他にも飛行艇“イザナミ”に気付いた人間はいたが、飛行艇自体を知らないため報告には至らなかった。
クルックの飛行艇“イザナギ”(元“ヨモツヒラサカ”)と交代で夜間偵察を繰り返した。
潜砂艦“アマテラス”は、三日間滞在し、都市“モント”へ引き返した。




