第三十四話、イザナギ
青い空の向こうに巨大な入道雲が見える。
青と白のコントラストが美しい。
潜砂艦『アマテラス』とローズキャラバンは、岩礁地帯を抜け『アールヴ』に向かっている。
「これに見覚えは?」
エルザードが、畳んだキャラバン旗をフィッダに見せる。
ユーレイ船から回収したものだ。
所々焦げているが、イナホを意匠化したものである。
「……イナホキャラバン(父)のものです……」
フィッダは、そっと旗を胸に抱いた。
「……そうか、荼毘には付したよ」
――ユーレイ船は燃やした。
エルザードが答える。
「……ありがとうございます」
「この航路で度々、奴隷狩りの報告が出ていた。 残念だ」
エルザードが頭を下げた。
この後、フィッダはクルックの腕の中で泣いた。
クルックは、フィッダが泣き止むまで優しく抱きしめた。
◆
岩礁地帯を抜けて二日がたった。
今、二船は航路沿いを警戒しながら『アールヴ』に向けて航行中である。
潜砂艦『アマテラス』は、潜望鏡深度(潜望鏡と無線用アンテナ以外は砂の中)でローズキャラバンと並走中である。
潜砂中でも、砂上船と速度は変わらなかった。
ローズキャラバンの飛行甲板に人が集まっていた。
ここには、飛行艇『ヨモツヒラサカ』がとめられている。
「整備は任せろ」
イオリが、工具片手ににっこり笑った。
――さあバラすぞお
「大丈夫だから」
イオリを見て不安そうにするフィッダを、クルックがなだめる。
「どう思います?」
ファラクが、マリア・マクレガー女史に聞いた。
「とってもおもしろいわねえ」
マリアだ。
彼女は、潜砂艦『アマテラス』の魔紋と魔術陣の開発に深く関わっている。
二人の船巫女を同時に踊らせる、『ユニゾン・システム』は彼女が開発した。
艦の中央に、二つの円形の踊り場があり、ワルダとランダが、同時に舞を舞うのである。
『ヨモツヒラサカ』の魔紋にも関わっていた。
「ふうむ、ちょっと失礼」
マリアが、フィッダの体の魔紋を確かめる。
黒い鈍色だが、確かに銀色をしていた。
「生きている、いえ生きかえった……?」
「イマワミコになったんですよね」
ファラクが、フィッダに聞いた。
船巫女の契約を切られる前に、船主(父)と船(イナホキャラバンの船)を失っている。
魔紋が真っ黒に染まった、イマワミ状態になった。
コクン
フィッダがうなずく。
「『黄泉がえり』……ね」
『ヨモツヒラサカ』とフィッダ、そして、クルックの魔紋を見ながら、マリアがつぶやいた。
「……黄泉がえりっっ」
「…………」
「マリアさん、そしてみんなも」
「『ヨモツヒラサカ』の名前を、『イザナギ』に変えましょう」
ファラクが言った。
女神『イザナミ』の兄であり夫である男神『イザナギ』。
死んでしまった妻である『イザナミ』を、黄泉の世界まで迎えに行って、帰って来た。
飛行艇、『ヨモツヒラサカ』改め飛行艇、『イザナギ』の魔紋は、黒ずんでケガレていたが、たしかに黄泉がえっていた。
◆
天気は良い。
空は晴れ渡っている。
砂漠の向こうに、小さくオアシス都市が見えた。
モンジョ古王国の国境の都市、『ミズラ』である。
「船長、航路を見てください」
「何だい~」
ローズヒップが、双眼鏡をのぞいた。
「えっ」
巨大な艦だ。
三本マストに、船体の周りをクルリと銀色の魔紋が輝いている。
その横を二艦、ドウタクサイズの重戦艦、『ドウホコ』クラスが随伴していた。
「おいおいおい、あれって」
ローズヒップは、エルザードに無線を繋いだ。
「やばいよっ、航路上を見てっ」
「むむ?」
「艦橋深度へ浮上」
『アマテラス』の艦橋が砂上に出る。
「なっ、何故、あれがここにいるっ」
大型の望遠鏡で見た、エルザードが大声を上げた。
ドウタクサイズの上のドウキョウサイズ。
『ジンギ』クラスの一つ。
モンジョ古王国に三隻しかない巨大艦。
超重戦艦、『ヤタノカガミ』
モンジョ海軍、南方方面艦隊の旗艦であった。
「モンジョの旗艦だよね、あれっ」
――艦隊の旗艦が国境付近に移動するって
ロースヒップが頭をかいた。
「……ああ……」
エルザードは、このことを報せるために、イオリとファラクと飛行艇『イザナミ』を飛ばした。
『アールヴ』の国境の都市『モント』に向けてだ。
約半月後、『モンジョ古王国』は、『アールヴ首長国連邦』に、宣戦布告。
旗艦『ヤタノカガミ』率いる、モンジョ南方方面艦隊が、国境を越えた。




