第三十三話、スティングレイ
青く晴れ渡った空に、煙幕の煙がたなびいている。
飛行艇“ヨモツヒラサカ”が飛行している間、軽くなったローズキャラバンの船は追手をわずかにひき離していた。
「痛うう」
クルックは背中に痛みを感じている。
――このまましばらく飛んで、船が軽いままの方がいいんだが
「クルック、無理は駄目」
後ろからフィッダの声がする。
「わかった」
――背中の傷口が開いたのがばれたか
「着船する」
無線で伝えた。
「了解」
「……そのまま着船出来るかい」
キャラバン船は全速航行中だ。
「大丈夫だ」
飛行艦“キサラギ”で、不時着艦訓練をしていた。
着船させる。
「ふうう、着船終了」
クルックは全身脂汗をかいていた。
クルックの全身の脂汗は、無理な着船が原因ではない。
背中の、包帯は血で赤く染まっていた。
「……クルック……」
血がついた、前部シートを見てフィッダが青い顔をする。
――もうクルックの体は、クルックだけのものじゃないっ
「“ヨモツヒラサカ”と……私を置いていくの?」
フィッダは、機体から降りてきたクルックの体をを支えながら、ぽつりとつぶやいた。
「っつ、すまん」
クルックが答えた。
クルックは、フィッダに必要とされたということに、改めて気づいた。
◆
ドパパパパン
立ち込める煙の向かって、火薬付きのバリスタの矢を放つ。
爆風で煙が吹き飛ばされた。
煙が無くなった所を、二船が進んでくる。
「やはり同じ砂漠の民、煙幕の散らし方くらいは知っているか~」
追手に、オチホキャラバンがいるからなおさらだ。
ローズヒップが双眼鏡で確認しながら、独りごちる。
「大丈夫か」
背中の傷の手当てを受けた、クルックがキャラバン船の操縦室に上がって来た。
少し顔色が青白い。
心配そうに、フィッダが付き添っていた。
「大丈夫なのかい?」
「……なんとかな」
「しっかり休んどいとくれ」
「もう少しで、岩礁地帯に入る」
――さて、吉と出るか蛇と出るか
しばらく進んだ。
じわじわと追い上げられている。
ここは、モンジョからアールヴに一番早く着くことが出来る航路だ。
しかし約十年くらい前から使われなくなった。
なぜなら、
前方を確認していたローズヒップが言った。
「くっっ、ついてないっっ」
岩礁地帯に、デザートスティングレイ(砂漠エイ)の群れが住み着いたからだ。
これは、大きさが5メトルくらいの肉食のエイで人を襲う。
シッポの根元に毒のとげを持ち、砂上船の甲板に登ってくるのが厄介だ。
岩と岩の間の航行可能な砂地に、20匹近いデザートスチングレイ(砂漠エイ)の群れが見えた。
「……もう一度飛ぼうか?」
――それこそ、煙玉の出番では?
「いや、無理だっ」
エイを追い払えても、煙で岩礁にぶつかる危険がある。
「……気づかれた……」
ローズヒップが、後ろを確認した。
奴隷狩り(マンハンター)の艦が加速した。
オチホキャラバンの船を置いて、急速に近づいてくる。
「くっ、白兵戦用意っっ」
ローズヒップが、船内無線に叫んだ。
「んっっ」
フィッダが、バッと顔を上に上げる。
船の前方、少し高くなっている所にある操縦室の横のウイングデッキに飛び出した。
「どうしたっ」
クルックが、ゆっくりと追いかける。
「あれっ」
フィッダが、エイの群れを指差す。
キイイイン
甲高い発射音がした。
ズドオオオン
炎の柱と共に、複数のエイが宙を舞う。
「か、艦砲射撃っ」
ローズヒップが、驚きの声を上げる。
ウイングデッキに出たフィッダの頭の上を、銀色の光を空中の残しながら一機の飛行艇が飛んだ。
「“イザナミ”っっ」
クルックが、空を見上げる。
ドキイイイン
ドゴオオオオン
今度は、奴隷狩り(マンハンター)の艦の鼻先に砲弾が落ちた。
「こちら、“アールヴ”の私椋艦、“アマテラス”だ」
「奴隷狩り(マンハンター)に追われているんでいいんだよな?」
男の声が、無線から聞こえた。
「ちょっと、あれっ」
ファラクが、飛行艇“イザナミ”の後席から驚きの声を上げる。
「なっ」
イオリの視線の先には、キャラバン船の甲板にとめられている“ヨモツヒラサカ”があった。
“イザナミ“が可変翼を全開にして、船の上を低速でローパス。
「……クルック……」
イオリは、ウイングデッキに立っている、クルックと目を合わせた。
ローズヒップは、艦砲射撃で空いた航路に、船を滑り込ませる。
キイイイン
ズドオオオン
もう一発鼻先に撃ち込まれた奴隷狩り(マンハンター)の艦は、オチホキャラバンと共に、180度回頭、諦めて去って行った。




