第三十二話、ケムリ
周りは日が暮れて、薄闇になりつつある。
「前方、照明弾っ」
「ローズキャラバンのキャラバン船です」
「空から何かが下りてきました」
部下が双眼鏡で確認する。
「ヨ、”ヨモツヒラサカ“だ」
「こ、壊せっ」
「早く、アレを壊すんだあ」
カスマールが言った。
目つきがおかしい。
「ふんっ」
”ヨモツヒラサカ“の襲撃の時に、魔紋に侵されて部下が十人、廃人になっている。
奴隷狩り(マンハンター)のカシラである、”デスバト“も悪夢を見るようになった。
「……やはり、この航路にいたか」
デスバトが言った。
今はあまり使われない航路だが^アールヴ”には、最短距離で行ける。
「ギールにも伝えろ」
「全艦、全速前進」
デスバトは、ドウケンクラスの艦橋から命令を出した。
――オチホの船と船足は一緒だが、飛行艇分重くなる
「……“アールヴ”の国境までには追い付くか……」
デスバトが双眼鏡を覗きながらつぶやいた。
――やはり一緒に始末しておくべきだった
ギールは、フィッダを思いうかべる。
――僕の船の船巫女になるのを断りやがった
イナホキャラバンで見習いをしていた時から、フィッダに思いを寄せていたのである。
結局、イナホキャラバンの代表である、父親の船に船巫女になった。
「前方にローズキャラバンがいます」
無線で、デスバトから指示が来た。
「全速前進」
何も荷物を載せず、軽くしてきた。
ローズキャラバンより早いはずだ。
「……この航路か……」
ギールがイナホキャラバンを、この航路を使うように言って、デスバトに襲わせたのだ。
「父親の元に送ってやるよ」
ギールは考え込むように腕を組んだ。
◆
「うーむ、このままだと追いつかれるねえ」
ローズヒップが地図を見ながら言った。
ローズキャラバンのキャラバン船は、昼夜を問わず航行中だ。
キャラバンである以上、盗賊や砂賊に対抗するための武装はある。
「でも、ドウケンクラスなんだよねえ」
足が速い。
ある程度距離を詰められたら、一気に前に出られてオチホの船と挟み撃ちにされる。
「煙玉はあるか」
後ろから声がした。
「クルック、もういいのかい?」
振り向くと、上着を肩から掛けたクルックが立っていた。
フィッダが、腕を持って支えている。
「なんとかな」
「でだ、」
「飛行艇で飛んで、目くらましをして来てやろう」
煙玉は、巨獣や魔獣から逃げるときに使う煙幕だ。
「飛べるのかい?」
心配そうな声だ。
「無理はしない」
隣のフィッダもうなずく。
「わかった、頼む、ドウケンクラスのバリスタに気を付けるんだよっ」
ローズヒップは、答えた。
クルックは、飛行甲板まで来た。
飛行艇“ヨモツヒラサカ”の機体を優しく撫でる。
手の甲に、鈍色の目の模様の魔紋が出ていた。
「クルック、多分だけど……」
「あなたがこの子の、“船主”で、私が“船巫女”よ」
普通ならありえない
魔紋が限りなく黒に近いが、鈍く銀色に輝く。
「そうだな」
クルックがうなずいた。
「嫌か?」
そっとフィッダの頬に手を当てる。
フィッダは、クルックの手に自分の手を重ね、ゆっくりと首を横に振った。
「行こうっ」
「うんっ」
二人は、“ヨモツヒラサカ”に乗り込み大空へ舞った。
◆
可変翼を半ば閉じて、飛行艇“ヨモツヒラサカ”が砂の上を飛ぶ。
砂上船では、距離は離れているが、飛行艇では一瞬である。
キャノピーは、これからすることを考えて、開かれている。
「あそこっ」
ケイヤクをしてから、フィッダは“ヨモツヒラサカ”の目で視えるようになった。
二船がいた。
上空をフライパス。
船首に、落ち穂の意匠を確認した。
ビュウウウン
「むうう」
クルックがうなる。
ズキリと背中が痛む。
1メトルくらいの鉄の矢が飛んできた。
バリスタだ。
そうそう当たるものではないが、被害は出るだろう。
二船の後ろで“ヨモツヒラサカ”を旋回させる。
「(二船の)間を飛ぶ、合図したら落としてくれっ」
後部座席のフィッダに声をかけた。
「わかった」
フィッダは、両手に煙玉を用意した。
「いくぞっ」
「うんっ」
二船の間を、ローパス。
可変翼を全開にして横を向けた。
ビュン、ビュビュン
バリスタの矢が飛んで来る。
「今っっ」
フィッダが、煙玉を落とした。
バシュウウウウウ
落ちた瞬間に、辺りの煙が立ち込める。
二人はそのまま、ローズキャラバンの方へ飛び去った。




