第二十六話、フィッダ
フィッダ:意味、アラブ語で”銀”
潜砂艦、“アマテラス”は、アールヴの首都、“サーハリ”を目指して航行中である。
砂嵐だ。
砂嵐が近づいてくる。
「大きいっ」
イオリが大声を出した。
「初めて見るの?」
ファラクが聞いた。
「そうだよ、すごいっ」
イオリが目を輝かせている。
飛行甲板の上に、二人は出ていた。
「おーい、そろそろ中に入ってくれ」
「潜行するぞ」
「わかりました」
二人は、飛行艇、“イザナミ”の格納庫の中に入った。
分厚い扉を閉める。
「マクレガー女史」
イオリは、自分の師匠ともいえる女性に声をかけた。
「よう、イオリ、砂嵐を見るのははじめてか?」
「そうです」
「そうか、初めて見たときはびっくりするよな」
「砂上船は砂嵐で船体が、半ば砂に埋まってしまうんだぞ」
マリア・マクレガーは格納庫に、飛行艇、“イザナミ”を見に来ていた。
「そうよ~」
後ろにいた、ファラクが頷いた。
「あっ、それでですか、潜砂艦を作ったのは」
イオリがマリアを見た。
「そうだよ、どうせ埋まるんならそのまま砂の中を移動できないかな~と思ってね」
潜砂艦“アマテラス”の潜行が終わった。
ザンザンザン
スクリューが砂を切る振動が伝わってくる。
前進を始めたようだ、
少し傾いて揺れた。
「ふふ、だいぶ慣れたのね~」
ファラクが横目でからかうようにイオリを見た。
イオリは、砂の中に埋まるのを怖がって、布団を頭から被って震えていたのだ。
「いやあ~、メカニズムというか、仕組みが分かると不安が無くなって~」
イオリが頭をかきながら言った。
「うんうん、そうだろう、そうだろう」
マリアが、腕を組んで頷いていた。
二人は、“イザナミ”について熱く語り始めた。
同類??
イオリとマリアの二人を交互に見ながらファラクは思った。
似たもの同士の子弟なのだ。
◆
砂嵐が過ぎた後、快晴である。
「かわいそうな子」
銀髪の踊り子が、飛行艇、“ヨモツヒラサカ“に手を当てて言った。
キャラバン船の甲板だ。
飛行艇、”ヨモツヒラサカ“がシートを被され、ロープで固定されている。
「おまえは……?」
クルックが聞いた。
「フィッダ」
深紅の瞳が、チラリとクルックを見る。
「とてもいびつ」
視線を”ヨモツヒラサカ“に戻す。
「何か大事なものが欠けてる」
手を当て続けている。
「……そう、探してるのね……」
「何を言ってる」
「船巫女は、船にとって”母“みたいなもの」
「この子は、”母“がわからない」
だから、探しているの
飛行艇”ヨモツヒラサカ“は、船巫女なしで魔紋を操ろうとして、失敗した機体だ。
「”母“がわからない」
クルックの胸に深く突き刺さる。
小さいころから母はいないと言われてきた。
「この子は、死んでもいないし、生きてもいないわ」
「……まるで、黄泉に通ずる道の途中にいるみたい……」
小さなつぶやきは、砂漠の風の中に消えた。
◆
その後、飛行艇、”ヨモツヒラサカ“から、シートとロープを外した。
フィッダと名乗った女性は、何も言わず”ヨモツヒラサカ“の副操縦席に潜り込んだ。
ここには船巫女なしで魔紋を操る為の魔術陣が、描かれているはずだ。
「おいっ」
クルックが声を出した。
フィッダは、瞑想するように目をつむり、何も答えなかった。
「気に入られたねっ」
振り向くと、”ローズヒップ“が立っている。
この船の船長だ。
ちょいちょいと手招きした。
クルックとローズヒップは、船長室に移動した。
「あの目の様な黒い魔紋を見てから、こうなるような気はしてたんだよ」
「うん」
クルックは、渡されたコーヒーを一口すする。
「”イマワミ“って知ってるかい?」
ローズヒップも自分のコーヒーをすする。
「船巫女が、船と船主を亡くす、だったっけ?」
「そう、魔紋の契約を解除せずにね」
魔紋が漆黒に変わる。
この状態を”イマワミ“という。
「フィッダはね、”イナホ“キャラバンの船の船巫女だったんだ」
「船主は、彼女の父親さ」
コーヒーカップを見つめる。
「私が駆け出しのころお世話になってね」
「他に二隻、船を持ってた」
「でもっ、砂漠の盗賊に襲われたらしい」
「三隻の内、二隻は沈められたそうだ」
「で、一隻逃げてきた船に、”イマワミコ“になったフィッダが乗っていたよ」
「ここまではいいかい」
「ああ」
コーヒーは冷めてしまった。
「その残った一隻の船長が評判の悪い男でねえ」
「フィッダが虐待されてるってんで、慌ててうちに引き取ったんだよ」
「そこでだ」
クルックに顔を寄せ、小声になる。
「この男は、フィッダの親父さんをはめたんじゃないかという噂がある」
「奴隷売買をするかしないかで揉めていたそうだ」
「今は、”オチホ“キャラバンと名を変えて、違法の奴隷狩りをしてるらしいよ」
「なっ」
――”オチホ“
クルックは、エンバー家の紹介状の手紙の内容を思い出す。
奴隷売買の取引先は、”オチホ“キャラバンと書かれていたはずだ。




