第二十五話、スナアラシ
ローズヒップは、シルン領に姉がいる。
遠くの空の一部が、霞がかったようになっている。
砂嵐が起っているようだ。
「浮遊率、70パーセント」
アジトである”アマノイワド“の中で、潜砂艦”アマテラス“は空中に浮かんでいる。
飛行船を元にしているので、気嚢(風船部分)全てにヘリウムガスを充てんすると浮かぶことが出来た。
浮遊率70パーセントとは、艦底が30パーセント砂地についているということだ。
「サイドスラスター展開」
エルザードが、転輪の横にある切り替えレバーを押し下げた。
艦体前後の横にある、横向きのジェットのカバーが上に開く。
「艦首を出口に向ける」
転輪を左に回した。
前後の、サイドスラスターが反対に作動。
ズズズズズ
接地している艦底から砂煙をあげながら、”アマテラス“は、その場で180度回転した。
「ヘリウムガス、排出」
艦体左右の排出口から白い煙が出た。
砂地に完全に接地。
「艦橋深度まで潜行」
「ワルダ、ランダ、舞ってくれ」
伝声管に言う。
「「わかった~」」
伝声管から帰って来た。
周りに波紋を描きながら、”アマテラス“が潜行する
「両舷、微速前進」
「”アマテラス“出港」
飛行艇”イザナミ“の受け渡し完了や、クルックと’ヨモツヒラサカ”のことの報告が必要だ。
“アマテラス”一行は、アールヴ王に謁見するために、首都”サーハリ“を目指して出港した。
◆
コオオオオオオ
空に白い線を引きながら、クルックと”ヨモツヒラサカ“は砂漠の上を飛んでいた。
目印が少ないのでわかりにくいが、”アールヴ“の国境を越え”モンジョ古王国“に入っているはずだ。
最近、夢見が悪く頭が重い。
後部座席に座っているカスマールは、最近ブツブツと独り言を言って様子がおかしい。
「んん?」
しばらく飛んだ。
ふと横を見ると、砂色の巨大な柱がこちらに近づいてくる。
「砂嵐……か?」
その時、
「ちょおっとおおお」
野太いおばさんの声が、コックピット内に響き渡った。
「えっ、緊急用の無線、…か?」
全国共通の緊急時用の周波数だ。
「あれ(砂嵐)が見えないのかいっっ」
耳がき~んとした。
下を見ると、中型のキャラバン船が見えた。
全体的に重厚で厳つい。
「何に乗ってるか知らないけど、巻き込まれたら、バラバラだよっっ」
飛竜も含めて、砂嵐の前で飛行は厳禁である。
「ほらっ、急いで降りてきなっっ」
船に後ろにある、飛竜用の甲板に表示灯が点滅していた。
「お、おおう」
頭が重い上に、耳をつんざく大声に気圧された。
クルックはキャラバン船の甲板に、飛行艇”ヨモツヒラサカ“を着船させた。
「ほらほら、急いで急いでっっ」
大慌てで”ヨモツヒラサカ“に、シートをかけて甲板にロープでしっかり固定する。
ゴオオウ、ゴオオオオウ
作業を終えて、船の分厚い鉄の扉を閉じた頃には、砂嵐は目の前まで来ていた。
全てのシャッターが閉じられ、船内は裸電球の赤い光が揺れている。
「初めましてだねっっ」
恰幅のいい、女性が大声を出した。
無線の声と同じだ。
「ローズキャラバンの船長、‘ローズヒップ”だっ」
「砂嵐の近くを飛ぶなんて、危ないじゃないかっ」
バンバンと、クルックの肩を叩く。
「あ、ありがとう」
クルックが礼を言った。
「おや、兄さん、どっしりしてていい男だねえ」
クルックは、下腹が少し出て固太りしている。
砂漠では、貫禄があるといってもてるのだ。
「兄さんも、連れの人もお疲れのようだ」
「部屋の案内するから休んどくれ」
カスマールは、無言で後ろに立っている。
「わかった」
時折、船が左右にゆっくりと傾く。
クルックは、案内してくれた部屋のベットに横たわった。
シャラン、シャラララン
眠りに入る寸前に、涼やかな鈴の音を聞いたような気がする。
その夜は、悪夢を見ずにぐっすり眠れた。
◆
朝だ。
砂嵐を乗り越えたキャラバン船は、砂に半ば埋まっている。
操砂の魔紋で船を浮かび上がらせる。
船巫女がいなくても、簡単な魔紋なら使用可能である。
ただ、魔紋を励起させるのに時間が掛かるのだ。(操砂の魔紋で大体十分くらい)
クルックは、久しぶりに爽快な気分で目が覚めた。
頭も痛くない。
「何故だ?」
取り合えず、“ヨモツヒラサカ”を確認しに行った。
シャラン、シャラララン
聞き間違いか?
“ヨモツヒラサカ”のある場所を教わりながら、船内を移動する。
シャラララン
鉄の扉を開いた。
シャラン
シートをかぶされた“ヨモツヒラサカ”の前で、踊り子が一人、舞を舞っていた。
銀髪に、深紅の瞳。
彼女の肌に描かれた、魔紋は漆黒の色をしていた。
深紅の瞳がちらりと、クルックを流し見る。
ビュウウウウ
風がシートの一部をはだけさせる。
シャラン
彼女の魔紋と、隙間から見えた、“ヨモツヒラサカ”の魔紋が一瞬、銀色に光り脈動した。




