番外編 霜月家の似た物親子(46部以降既読推奨)
(´・ω・`)栄えある初一人称視点
最近、娘がとてもいい生き生きとした表情をしている気がする。
いや、そうではないのか、ふと思い返すと私が見る娘はいつもうつむき気味で、私は顔をしっかり見ていなかった。
私の妻は他との縁談を全て蹴って自分の両親に啖呵を切ってまで私を選んでくれた。紆余曲折ではまとめきれない苦労もあったし、礼儀作法を成人を超えてから学ぶのは私もなかなか大変だった。しかしそれが霜月家の人間になるということであったので、私は苦心しつつも努力を重ねてきた。
だからこそ妻は、娘には礼儀作法を徹底的に仕込んでいた。
父である私が言うのもなんだが、私の娘は妻のような理論的で要領の良いタイプではなく、私のように反復をコツコツと積み重ねていくタイプだった。
妻は数字や能力を見ることに長けている。ただ、感情的な物に関して些か疎い。お義父様とお義母様が急に亡くなられても他家の介入を阻み立てなおせる優秀な妻の唯一の弱点、だと思う。
感情表現が不器用過ぎるのだ。
私は妻とは学生時代の頃から付き添いそれをよく知っている。
妻の不器用さ、そして正解を導き出す力が優れているあまりその正解を他者にも強い過ぎてしまう癖があることに。
娘の教育も、男として矢面に立つ私を気遣って積極的にしてくれていたようだが、それが正解だったのかは私には分からなかった。
娘ともっとちゃんと話がしたい。だが昔は時間もなく、たまに話しかける時があっても娘は困ったようにだんまりしてしまう。私が色々聞くことで尚更困ってしまうような娘を見て、いつしか私も娘を遠目から見守るしかなかった。
だからこそ、大学合格を期に娘に1人暮らしをさせてみた。自立を促すため、というものもあったが、家名と家庭に抑圧され過ぎているだけではないかと、反対する妻を押し切り1人暮らしをさせた。だが、娘にあまり変化はなかった。
結局家に戻したが、娘が特段変わったようにも見えなかった。
そんな娘が、最近自分から動いていてなにかをしている。
思い当たるのはVR機器というものを買ってから、いや、別に直近は特に何の変化もなかったし、娘自体ゲームとやらをしたいとか欲しいとかそのような発言は聞いたことはない。
気分転換になるかとパブリック制度に通った娘にお祝いとして第7世代機を贈ったが、あまり反応は芳しくなかった。親戚との交流でAL何ちゃらに当選したらしいが、それでも娘は変化はなかった。
だが、どうしたことか。最近の娘は前よりも顔が上がっている。
お義父様や父さんが存命だった時の、元気のある表情を私は久しぶりにみた。
もうルーティーンのように毎朝走りに出て行く娘が、やりきった生気のある表情で帰ってくる。今までだったら決められたペースや時間で程々に走っていたが、時間が惜しいとでも言うかのように走っている。生き生きとした顔をしている。
気のせいではない。娘はたしかに変わった。
昔から娘の周りには友達と呼べる存在がいないのは苦にしていた。どうやら話すこと自体苦手なようで、いくらパブリック制度を通っていようが会話は仕事の基礎中の基礎。いつかは改善すべきこととして、カウンセラーの手を借りようとも思っていたが、今の娘を見ていると必要ではないかもしれないと思うこともある。
友人に勧められた若手のカウンセラーは値段は高くなく腕も確からしいのだが、スケジュールの都合がつかなくて断念した。だが今に思えば下手に介入させなくてよかったのかもしれない。
娘は前を向いて歩けるようになってきているのだ。ここで要らぬ介入をするのも野暮というものだ。なにか異常があったらその時は聞き出せばいい。願わくば、娘がこのまま昔の明るさを取り戻してくれれば、昔にようの様に笑えるようになるなら、もうそれでいい。
胸の内ではそう思える。だが口に出そうとするとうまく言えない。
そんな私も、大概不器用な人間であろう。
◆
私は、迷っている。
あの人は、2人の間の特例と言った。
けれど、やはりその正体が気になる。半端に情報があるから尚更気になってしまう。
『カウンセラーは簡単になれる職種じゃない』というのは私も知っている。
座学だけではない、実際の頭の回転の速さからトーク能力まで厳しい試験をクリアしない限り正式なカウンセラーとは国から認められない。
昔と比べてロボットの技術も進化した今は医者になるよりも才能が最後は物を言う界隈なので辛い職業である。
そんな感じの事は調べなくとも一般常識として知っているし、中学生や高校生の時に学校に居たカウンセラーの人に何度か相談しようかと迷ったこともあったから普通の人よりは少し詳しく知っている。
正式なカウンセラーは医師と扱いは似ていて、『日本国家公認カウンセラー協会』というサイトで条件入力でカウンセラーを検索できる。
最近の私は気づくとそのサイトを開けては閉じ開けては閉じ……をただ繰り返していた。
けれどもその好奇心は抑えがたく、遂に私は条件欄を設定し始めた。
「(年齢は20代半ばだから…………年齢は20代〜30代で設定。ログイン時間も長いし、暇なの……違う、違う。時間に余裕がある人、だから…………検索順は、に、人気順の上……失礼だけど、下から見てみる方がいいのかな?)」
少し迷い良心の呵責はあったけど、やっぱり暇そうな印象があったので、加えて上から見ていって下の方まで探してもようやく見つけた時に自分がどう顔を合わせればいいのかわからないと思い、人気順下位からにして震える手で決定ボタンを押した。
そうすると顔写真と名前、そして評価点を表す星のマークがズラッと表示された。
人気順の下からなので、序盤はまず評価点自体ない人や一点を下回る人も多い。一体何をしたらこんな評価がつくんだろう。
あの人は、アバターの外見は大きくは変えてないと言っていた。肌の色は死人のようだけど、別人と誤魔化せるギリギリ程度に変えていると。そしてプレイヤーネームは本名をもじった物とも。
ゆっくりと指をスクロールし、ALLFOで撮ったスクショと見比べながら1人1人確認していく。けれど、ピンとくる人物は見つからない。
スクロールバーが1/2を超えたあたりで平均より上なのかも、と何故か自分のことように嬉しかったが、3/4を超えても5/6を超えても9/10を超えてもピンとこない。
見落としたのかもともう一度上からスクロール。けれど結果は変わらない。
自信がないのでもう一度……やっぱりいない。
私はやっぱりそうそううまくないのかな?と4回目は少し雑にスーッとスクロール。ちょっと勢いがついてバーが下限まで到達。つまりランキング的には最上位の人たちが表示されている画面。そこで私の指がぴたりと止まった。
「(あれ…………?)」
最初にふと感じたのは『あの人に弟がいたならこんな顔かな?』という不思議な既視感である。
微かに面影があると言えばいいのか、違うと言われればそれまでだが知っている顔よりももう少しシャープな顔の輪郭と鋭い目つき。名前も確かに関連付けようと思えばできないことはない。
「(紹介欄がある…………えっと、『22世紀を代表する精神疾患である『AI極度不信症』などを専門とし20代までの若い世代のカウンセリングに定評がある。依頼料も平均より低く良心的、長期契約は既に枠がないほど。
ただし、予約はなかなか取ることができず、空いている期間も不定期かつ不鮮明。アポイントメント自体もなかなか取れないのがマイナス点としてあげられている。
教育番組の準レギュラーとしても活躍する最も勢いのある新進気鋭の若手カウンセラー』………………ひ、暇なんじゃなくて、むしろ頼んでなくても仕事があるんだ。予約も一杯だし…………ランキング下位からみた私が馬鹿だった。上からみればすぐにわかったのに。わ、私、結構すごい人と知り合いになってたんだ…………!)」
ディスプレイの前でポカーンとしてしまう私。
まさかあの人がお父さんが頼ろうとしていたカウンセラーだというのは、私は全く知らないでいるのだった。
(´・ω・`)トップバッターがまさかの新キャラ
(´・ω・`)そろそろノート達の具体的なビジュアルデータを掲載したいと考えています




