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春夏秋冬  作者: 向井孝雄
11/13

夏・荒れ狂う嵐の中で 雲の上?中?

 夏休みとはいえ、一応の進学校。後半もみっちりと課外講習が詰まっている。もちろん単位取得には無関係なので、サボル輩も結構居るのだが、先生のご機嫌を損ねたくなければ、出席するに越したことはない。

 孝雄は、二日酔いでズキズキする頭を抱えて、夏休み後半初日の課外を何とか乗り切った。急いで帰る理由もなく、特に用もないのだが孝雄の足は何者かに導かれるかのように総務室に向かっていた。総務室に上がる階段の横に和江が軽く寄りかかるようにたたずんでいた。

 昨夜の出来事は、夢うつつの様でもあり、その後しこたま飲んだこともあって、まだ雲の上をさまよっているような感じだった孝雄は、一瞬にしてシャキッとなった。

 なんとなく気まずい思いをかかえて和江をやり過ごすと階段を上がった。

 総務室には誰も居なかった。孝雄は、途切れがちな記憶を丹念にたどりながら、昨夜の出来事を検証することにした。

(何でゆうべ和江が来てたんだ?)

(願妙、居なかったじゃないか。)

(ケンカしたようなこと言ってたな。)

(昨夜のことは、やっぱマズかったよな。)

(どのことだ?)

(あれもこれも)

(石川の野郎。ほんっとに頭くるよな。)

(お前が先にちょっかい出したんだろうが。)

(挑発に乗る奴が悪い)

(勝手だな。でも憂さ晴らしできて、良かったろーが。)

(ところで、どうして和江は下に居るんだろう?)

(あー酔っ払い、ヤダヤダ)

 1人で行う現場検証は堂々巡りで、結局孝雄は、満足な回答を見出せずにいた。

ふと時計を見ると小一時間ほども経っている。


 階段を降りると、和江が先ほどとほぼ同じ格好で佇んでいた。思わず口元がほころぶのを感じながらも努めて平静を装って、和江に声をかけた。

「ずっと、ここに居たの?」

ふた呼吸ほどあって、和江が口を開く。

「なんか、ゴメンナサイね。」

「いいよ、別に。」それっきりまた沈黙。


「でも、ちょっとうれしかった。」

「なんで、あんなことになったの?」

「よくわかんない。」

「酒癖わるいのかな」

「そっちこそ」


 自然と、壁に並んで寄りかかるような格好になり、二人はそのまま正面に広がるテニスコートに向かって話を続けていた。

「わたし、きっとすごく甘えん坊なの」

「そう?」なにをはなしていいかわからない状態の孝雄は間の抜けた返事をする。

「ところでさぁ、この間願妙が、『和江って結構重いんでナ、困ってる』とか言ってたけど…」

「わたしって、だっこ魔なのかなぁ。」とかみ合わない会話。

「あっ。そういうことなん。」ちょっとムカッとする。

「冗談よ!」おどろいて振り返る孝雄。和江の視線は真っ直ぐにテニスコートを軽やかに走り回る男を追っていた。


 孝雄は自分の存在が急速に萎んでいくのを感じた。ウキウキワクワクとお話をしていた自分がアホらしくなってきた。恥ずかしい。いたたまれなくなって、夢中で駆け出した。



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