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春夏秋冬  作者: 向井孝雄
10/13

夏・荒れ狂う嵐の中で 台風の目

「よぉ。 今夜、何人来るん?」

学校祭も無事終了して、反省会をやろうという事になった。

「10人位かな。」

「場所は?」

「顧問先生の計らいで、学生会館を貸しきってもらった。8時過ぎたら、誰も来ないってよ。」

「そうかっ。じゃ、たっぷり仕入れていかんとな。」

孝雄は、あまり気乗りがしなかったのだが、家に帰ってもどうという事もないので、打ち上げに参加することにした。石川と妙子も当然のごとく参加するのが気乗りのしない主原因だったが、これまった意外なことに、件の和江が来ていた。

8時を過ぎたのを確認して、桑田が台所から重そうなビニール袋を抱えてきた。

「それ、なーんですかぁ?」京子が素っ頓狂な声を上げる。既に酔っているかのようだ。

「ビールは少し。どうせすぐこっちでしょ。」桑田が気を利かせて買ってきたのか、ホワイトのボトル2本とコーラたくさん。

「あと、これは、親父のサイドボードからかっぱらって来た。」といって、「レミーマルタン」のボトルを取り出した。

「ウヲー」男子たちから、拍手喝さい。

「では、学校祭の大成功を祝って。」妙子や京子は、飲んだことがないといって遠慮していたが、桑田から半強制的にビールを注がれて、とりあえず乾杯の輪に参加した。

「カンパーイ」

女子たちがキョロキョロしているうちに、男子は一気にビールを飲み干し、次の酒盛りに移っている。和江は、意外や意外、いっきにビールを飲み干してケロッとしていた。

「おっ。和江ちゃん。行ける口?」目ざとく見つけた桑田が、次の一杯いを注ぐ。

「さぁ、のものも」遠慮している女子たちに、岩永が乾杯を促す。飲む前から酔っていた感じの京子が「飲んじゃお」っと一気にコップを空けた。

「甘口のお嬢ちゃん達には、カクテルも用意してあるよぉ。」と用意のいい桑田幹事。

孝雄は、例の事件以来はアルコールは口にしていなかったが、自分は意外とアルコールに強いことを認識していた。ちょっとやそっとでは酔わないみたいだ。面倒くさいので、乾杯でビールを一杯飲んだ後は、ホワイトをストレートで二杯ほど流し込んだ。レミーマルタンを味わう気色にはなれなかった。これでようやっと辺りの酔っ払い達についていける。

岩永は、酔っ払うと相変わらず前の彼女に振られたときに作った額の傷のことをしゃべりまくっている。何度も聞いた様な気がするが、詳細は覚えていない。

石川がいつの間にか妙子の隣に座り、耳打ちみたいなことをしている

ムカツク奴だ。酔いの勢いも借りて、孝雄は図々しくも、仲良くやっている二人の間に割り込んだ。

「おやおや。お仲のよろしいことで。いつもうちの妙子がお世話になっています。」しらふではとても言えないセリフだと、孝雄のどこかが思っていた。

「えっ、おまえの何なの?妙子って。」と石川も強気。酔った勢い。

妙子はうろたえたようなまなざしできょろきょろしているばかり。

「ちょっと、トイレっ。」それとなく、1人つまはじきになっていた京子が素っ頓狂な声を上げた。

便乗するかのように「あっ、わたしも。」と妙子が応じる。

あたふたと、部屋を出て行った京子と妙子を二人並んで見送るような格好になった孝雄と石川は、それとなく顔を見合わせて、二人で大声を出して笑った。

「何々、お前ら、かたき同士ってわけジャン。」岩永が食いついてくる。

「京子ちゃんの機転で、見事に和解したってわけ?」

「和解も何も…。」孝雄が口ごもっていると、

「もはや、かたきでもなし…」石川が独り言のようにつぶやく。

孝雄は、相当に酔った振りをして、石川の首に手をかけると、そのまま一気に壁に頭を押し付けた。石川は一瞬驚いていたようだったが、口元にひややかな微笑を浮かべ黙っていた。


「京子、アリガトね。連れ出してくれて。」

「ん。別に妙子を連れ出すためじゃないよ。」とすっとぼける京子。

「だって、わたしも見ていたくないもん。アンタたち。」


桑田は、幹事の特権を乱用して、盛んに女子たちにアプローチしている。

「もぅ。でもみんな既にヒモつきなんだもんねぇ。つまんねぇー。」

「あっ、そう言えば、昨日願妙珍しく1人で帰ってたの見たけど、なに?喧嘩でもしたの?」

孝雄は、一瞬ヒヤッとして、酔いがさめる思いがした。和江がまた、泣き出しでもしやしないかとハラハラして見やった先で、和江はほんのりと頬を紅らめて、ニッコリしていた。桑田から結構飲まされてはいるようだったが、酔ってるのか?

「実はねぇ。」和江は幾分ろれつの回らない口調で

「おととい、ちょっとあってね。ケガしちゃったから、ご機嫌ナナメみたいなのぉ。」

「なにがあったん?」

和江は、暫く中空を眺めていたが、

「おうちで、いやなことがあってね。ガンに愚痴ってたの。」

「なに?」

「うん、オヤジとね。チャンチャン」と和江は両指でチャンバラのまねをする。

「そんでねぇ、ガンってば、オヤジの味方するんだよぉ。」

「もうっ、わかれちゃおうっかなぁ」

「うそー。マジでぇ」

「ほんとだよぉー」

「じゃぁ、オレ口説いていいかなぁ。」

「わたしってば、結構ガード固いわよぉー。」

と酔っ払い同士の浮いた会話が続く。

孝雄は、ホッとしたような呆れたような気持ちで、一昨日の自転車小屋でのことを思い出していた。


「ねぇん。だっこしてぇ。」

孝雄の想い雲を打ち破るように、猫なで声の甘ったるい声がした。

和江が桑田に擦り寄っている。




「そっ、そんなに、誰にでも、甘えるんじゃないっ!!」孝雄は思わず叫んだ。

自分でもびっくりするほどの大声で叫んでしまって、辺りを一挙にしらけさせた。

和江は、一気に酔いが冷めたようで、ハトマメの顔をしている。

桑田は、あわよくばことに及ぼうとしていた矢先の暴挙に、いささかムクれて、大声の主を斜めに睨んでいた。あまりの白けムードに、当の孝雄もほろ酔い気分が吹っ飛び、身の置き場を失った。

「ぐぇーーーん」

一瞬あって、和江がベッタリと座り込んで、大声で泣き出した。


「まぁまぁまぁまぁ。」岩永がわれに返ったように、辺りを制した。

「そろそろ、お開きにしようっか。」間を取り持つように、勝手に閉会宣言を行うと、そそくさと、辺りのものを片付け始めた。みんなも、何事もなかったかのように片付けの輪に加わる。泣き喚いている和江は、成り行き上桑田が介抱する形になった。孝雄は定まらない焦点で、一昨日の事を思い出したり、自分の酔いに浸ったり、フワフワと見ていた。


孝雄の朦朧とした視界の中を、帰ってしまう連中。行きがかり上桑田に腕を引かれて連れて行かれる和江。


「何をそんなに怒ってるの?」と妙子が尋ねる。

「お前が腹を立てる筋合いのもんじゃないだろう。」と桑田。

「あなたには、関係のないこと、って言ったでしょ。」和江が口を尖がらせる。

「やきもち焼くのは、十年早えーよ。」と石川が余計な口を挟む。

「なにをー、お前のせいじゃないか!」孝雄は、石川の胸座を掴もうとするが、振上げたこぶしは宙を切る。

「お前には、関係のないこと。」

「あなたには、関係ないことよ。」

孝雄の周りで、飛び交う言葉。


「やめてくれーーーー。」うずまくあざけりの笑いの中で、耐え切れなくなった孝雄は、両手で耳を塞いで、その場に倒れこんだ。

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