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稲荷様は平穏に暮らしたい  作者: 茶トラの猫
江戸時代 番外編
201/288

二十八話 オランダからの使者(3) ゲリラ戦

<織田信長>

 友好国であるオーストラリアの内政に干渉することになるが、見て見ぬ振りはできない。

 何より最後に一花咲かせるのも悪くないし、これまで積み重なった彼女への借りを返す良い機会だ。


 なので念の為にこちらの事情を説明し、武器弾薬や兵士を送るようにと手配した。

 しかし、最新鋭船とはいっても往復には時間がかかる。


 だからこそ被害を抑えるためには、儂らが現地で踏ん張らなければいけない。




 それにオーストラリアは日本の領土ではないので、命を賭けて守る必要はないが、白人共に好き勝手踏み荒らされるのは腹が立つ。


 現地住民と日本国民が良好な関係を築けているのも大きい。

 そもそも彼女は友人の苦境を放っておくことはできないし、馬鹿にされたら黙っていられず、下手をしたら単身で乗り込んできそうだ。


 結果、新たな藩がいくつも増えることになり、日本から遠く離れた地まで、我が国の一部として統治することになる。


 神皇や征夷大将軍の心労と仕事が激増するのは間違いない。


 親友たちの負担を減らすために、儂は老体に鞭を打って、最後のお勤めを果たそうと決断したのだった。







 そんなこんなで、場所は日本人町にある居酒屋、ほろ酔い狐。


 店主に無理を言って本日は貸し切りにしてもらった。


 日本からやって来た血の気の多い者以外にも、現地の義勇兵や仕事ができる者を募った。


 これには理由があり、日本はオーストラリアを支配していないからだ。




 逆に白人連中はここは自分たちの土地で、神の教えに従えと自己主張している。

 日本でも密かに行われていたが、現地で信仰されている神像を邪教と断定して破壊したり、他宗教の者を捕らえて無理やり従わせていた。


 そんな好き勝手に振る舞う外国人を、現地住民が快く思わないのは仕方がないと言える。







 だが期待されても、今すぐどうこうは出来ない。

 何しろここには、日本から来た者が長期滞在できるように作った、和風の屋敷ぐらいしかないのだ。


 自由に動かせる兵力と言えば、最新の船団と警備兵ぐらいの少数精鋭である。


 しかし兵が少なくても、最新の兵器と立ち回り次第で何とかなる。


 食料が現地調達なのは世知辛いが、日本語が通じるし文化が広まってるので和食も食べられる。

 義勇兵との意思の疎通にさほど苦労しないのは、戦略を練るには幸いであった。


「お館様! 稲荷神様が統治される前を思い出しますな!」


 海老の天ぷらを尻尾の先まで綺麗に食べ終わった猿が、現地住民から提供されたオーストラリア大陸の地図を眺めている儂に、元気いっぱいに声をかける。


「そうだのう。まあ友好国ゆえ現地から乱取りはできぬが、敵対勢力からなら良かろう」


 いくらオーストラリアを守ろうという志を立てても、その地で略奪の限りを行えば本末転倒だ。


 それに日本人より現地人のほうが、圧倒的に数が多いのだ。

 いくらこっちが銃火器を持っていようと、万一反旗を翻されたら敗北濃厚である。


「確かに、友軍の地で乱取りはいけませぬな!」

「友軍か。まだ義勇軍じゃが、そうなれると良いのう」


 オーストラリアは島ではなく大陸で、日本人町が点在するのは北の海岸沿いが主である。

 儂らにとって南部は未開の地であり、多くの民族が暮らしているのは想像に難くない。


 なので現地で協力を求めるとしても、それはオーストラリア全てではなく、一部地域か町や村といった小規模なものになる。


 しかし猿は堂々と胸を張って、断言する。


「今ここに居る者たちは、互いに酒を酌み交わす! かけがえのない友でございましょう!

 きっとこの大陸全土が友好国となるのも、そう遠い未来ではありますまい!」


 相変わらず猿は人たらしで、口がよく回るものだ。


 儂が真面目な顔で戦略を練っている間も、護衛や義勇兵の隊長格の者たちに友好的に近づいては、酒を飲ませて気分良く語り聞かせて、互いの仲を円滑にしている。


(そちらは猿に任せれば良かろう。儂は自分の仕事をこなすか)


 戦とは、行う前に大体の勝敗が決まっているものだ。

 それに、敵を知り己を知れば百戦殆うからずという言葉もある。


 向こうも銃火器を持っていようが、儂らにとっては型落ち品だ。

 それに現地の協力を得られれば、地の利はこっちにある。


「ここは無駄な犠牲を避けるためにも、ゲリラ戦でいくかのう」

「ゲリラ戦! 稲荷神様のお言葉ですな!」


 ほろ酔い狐の店に集合させた者たちに顔繋ぎしていた猿は、一段落したのか儂の正面に戻ってきて、流れで酒を注いでくれた。


 それをありがたく受け取り、ちびちびやりながら思案する。


 稲荷神の言葉は、意味を説明されても良くわからないモノが多い。

 だが何となく響きがしっくり来るし、的確に言い表せる言語がパッと思いつかなかったため、結果的に殆どがそのまま用いられている。




 なおゲリラ戦というのもその一つで、地の利と罠を利用して少数戦力で敵をかき乱し、こちらの犠牲を抑えつつ混乱に乗じて確実に数を減らしていく。

 そんな不意打ち上等の戦い方である。


「たとえたった一人であろうと、敵を壊滅させるのがゲリラ戦よ」

「まさか実戦で使う時が来るとは! いやぁ! 楽しみですな!」


 こういった妙な雑学も、稲荷神は詳しく知っていた。

 その際に、祖国を思うある一人の武士のことを、悲しそうな表情で語って聞かせてくれた。


 猿も儂と同じことを思い出したのか、何やら神妙な顔で口を開く。


「最後には敵ではなく味方に捕まり、守るべき者たちから罪人扱いされるのは、報われませんな」

「戦がなく天下泰平になった世に生まれた、歪みの一つじゃ。

 稲荷神でなければ、決して正せぬじゃろうよ」


 山林に隠れてゲリラ戦を繰り広げて、たった一人で敵を倒し続けたとある武士は、戦が終わって故郷に帰っても、彼はその日暮らしが精一杯だった。


 戦いの中に身を置くことでしか生きられない、悲しき戦士の定めと言える。


 最後には悪夢にうなされて騒ぎを起こしてしまい、守るべき民衆の手により罪人として、裁きにかけられてしまう。




 稲荷神は平和の歪みも見据えて、自衛隊を創立することで正している。

 しかし未来を生きる者たちが過ちを起こさないよう、教訓として伝えるのは必要なことだ。


 それはさて置き、物は使いようであり、ゲリラ戦の雑学であれこれ尋ねて出てきた罠の数々は、今回の戦いで役立ちそうだ。


「あと何処に敵を誘い込み、罠にかけるか。頼むぞ猿よ」

「はっ! お任せくだされ!」


 そう言って猿は、あらかじめ目星をつけていた現地の義勇兵の元へと向かい、すっかり気安くなった口調で、儂の元に呼び集めるのだった。







 敵の銃火器を封じるに最適な場所を探して、様々な手段で誘い込んで罠にかける。

 その混乱に乗じて、司令官を遠距離から狙撃する。


 この策が完全にハマり、現地の義勇軍と協力することで連戦連勝だった。


 さらには日本人町になっていない集落の者たちも、今まで散々好き勝手に暴れ回った外国の勢力に反旗を翻す時だとばかりに、一斉に立ち上がった。


 こうして織田信長が率いる義勇軍は、着々とオーストラリアでの地盤を固めていくことになったのだった。




 最終的には織田信長と秀吉は、民衆たちから大いに尊敬を集めた。


 なので死後に神様として崇められることになり、神聖な大岩の前に社まで建てられたのだから、その信仰はとんでもないものだ。




 結果的にオーストラリア大陸の民衆は団結して、白人勢力を駆逐した。


 その後すぐに日本と同じく鎖国政策を取り、極東の島国への帰化を希望した。

 だが残念ながら、最高統治者の手に余ると判断されて、親日国として認めます。という公式発言止まりであった。




 それでもオーストラリアの民衆は、全く諦める気配はない。

 政治や経済基盤だけでなく、文化や言語といった生活におけるあらゆる面で、もう一つの日本と呼ばれるほどになる。


 あとは態度には出さないが、かつて土足であがりこんで好き放題した白人種のことを、心底嫌っている。


 そして日本関係で馬鹿にされると、瞬間湯沸かし器のように一瞬でブチ切れる。

 さらには言葉遣いが汚く早口になるという、負の一面を持ってしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 秀吉…。最後まで作者様からも猿と書かれる…。
[一言] 将来は豪州で信長無双が出そうだな
[一言] 生き生きとしてる信長さんにほっこり 彼の心は少年時代に悪友達と野山を駆け巡った頃に戻っているのだろう 血みどろの裏切り地獄だった正史に比べ、なんと清々しい晩年だろうか そろそろ初期から仲の…
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