海
手紙を持ったまま、逆の手で、テーブルに置かれたCDを、手に取る。充希が死んだのが、もう遠い昔のことのようだ。
この手紙を書いている充希の姿が、目に浮かぶようだった。凄く嬉しかった。
充希のこと、決して忘れない。忘れられる筈がない。
「俺も……」
「憲!」
ハッとして見ると、奈央がいた。少し忘れていた。
「あのさ、デート、しない?」
「どうした急に、告白?」
「そう、付き合ってほしいところがあるの、因みに拒否権はないから」
「はー。今日は俺、モテるなー」
「調子に乗るな」
「いてっ」
叩かれた。
後日、二人で近くにある海に来た。前に三人で来たところだ。
泳いでいる人が沢山いた。
海辺から少し離れたところの砂浜を、歩いた。
「懐かしいな」
「そうね、思い出すな、充希と三人で来た時のこと」
「あの時は大変だったな」
「そうそう、充希が溺れちゃってね」
「また来たかったな、次来たときは、楽しませようと思っていたのに」
海が太陽の光を乱反射して、キラキラしていた。
海が夕日に照らされて、オレンジ色に輝く。
海を満喫したであろう人々が、各々に帰り支度をしている。
「憲」
「なに」
二人で海を眺めながら話す。
「学校に来て」
「なんで」
「……寂しいから」
「……少し考えさせてくれ」
「分かった」
三か月も学校を休んでいたのだ。簡単に決められるものではなかった。
日の入りチャイムの曲が流れる。
ふと時計を見ると、六時半だった。
隣を見ても充希はいなかった。代わりに奈央と目があった。その瞳は揺れていた。それに映った俺は、どうだったのだろう。