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おはよう、不登校  作者: ひめりか
6/9

引きこもり

 三人で近くの海に行ったことがあった。

 一人で好きに泳いでいると、充希に呼ばれた気がした。

 周りを見渡してみる。

 沖のほうに浮き輪に掴まったまま流されていた充希を見つけた。

 充希はあまり泳げなかった。

 浮き輪に穴が空いていたらしい。

「大丈夫?掴まって」

 自分の浮き輪に掴まらせて、自分は浮き輪の紐を持って、平泳ぎで浜辺に戻った。

「こわ、かった」

 涙目になっていた。緊張した。助けられて良かった。

「二人とも大丈夫だった?凄く心配したんだから」

「ごめんね、奈央ちゃん」

充希はそれから海に入らなかった。


 充希が亡くなった週の日曜日には、彼女の葬儀が行われた。

 式場には奈央もいたが、話はしなかった。

 クラスの担任の先生も見掛けた。

 もう充希はこの世に存在しないんだ。


 次の日、憲は学校を休んだ。凄く行きたくなかった。

「お母さん、今日、学校休む」

「あ、そう……明日はちゃんと行ってね」

「……はい」


 火曜日もまだ気分が乗らなかった。

 出掛けたふりをして、公園で、リュックに忍ばせておいた、小説や漫画を読んで、時間を潰した。

 家に誰もいなくなる時間を見計らって、昼頃には帰宅した。そんな生活を数日は続けた。

 ドアノブは慎重に引いた。開かなかったときは一安心。鍵を使って自室へと戻る。

 開いてしまったときは、音がしないように、ゆっくりと戻した。バレないかとドキドキした。母が様子を見に来るかもと思って、走って公園へと戻った。罪悪感は凄まじいものだった。事態が発覚するのは時間の問題だった。

 その日は鍵がしまっていたのに、お母さんがいた。何でいるんだ。完全に油断した。

「学校、行ってないんだって?」

「うん……」

「担任の先生から聞いたよ。今週はずっと来てないって。どうして学校行ってないの?」

「……行きたくない。……つまらない」

「そう。じゃあどこに行ってるの?」

「適当に散歩して、暫くしたら家に帰ってた」

 良く行く公園は、言ったらもう使えなくなると思って言わなかった。

「分かった。じゃあ次から休みたかったら、ちゃんとお母さんに言ってね。休んでいいから」

「はい……」

「良し!じゃあ今日は映画でも行こっか。お母さんは休みだし」

 母と出掛けるのは恥ずかしかったけど、久しぶりに楽しめた。


 次の日からはずっと家に引きこもった。

 朝になると、今日は学校に行こうかどうしようかと、憂鬱になった。毎朝母親に、「今日は行かない」と言うのが辛かった。

 母は毎日律義に、学校に連絡しているようだった。

 家では動画を見たりゲームをしたりして、時間を浪費した。

 はじめは良かったが、段々と退屈になっていった。

 充希に渡せなかったオレンジは、食べられずに黒くなって、床に転がっていた。なんとなく捨てられなかった。

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