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おはよう、不登校  作者: ひめりか
5/9

6:30

 雨の日の休日、両親は仕事に行っていた。憲は家で一人、ゲームをしていた。

 インターホンが鳴る。全くいつも丁度いいところで、宅配便やら郵便やらが来る。

 今日は現実世界を優先することにして、ボタンを押す。モニターに奈央が映る。

「はい」

「憲、充希のところ行くよ」


 奈央の家の車で病院へと向かう。

「充希のお母さんから連絡があって、充希が危ない状態らしいんだって。それで私たちも呼ばれたみたい」

 奈央はどう思っているか分からないが、憲は察してしまった。おそらくもうすぐ死んでしまうのだろう。だから、こうして緊急の連絡がされているのだ。

 

 病室には既に充希の両親がいた。

 促されて充希の手に触れると、微かな温もりがあった。

 暫くして医者が来て死亡診断をした。電灯が一段階、暗くなったかのように、光のトーンが下がった気がした。その部屋の誰もが泣いているようだった。空までもが。

 憲は泣かなかった。充希に対する後悔はなかった。前に読んだ小説の登場人物にも、そんな人がいた。

 街の日の入りを知らせるチャイムが、鳴っていた。


 彼女の父親は、葬儀社に連絡しているdようだった。

 彼女の両親は、充希の顔のそばに行って、顔を近づけて震えた声で話しかけていた。

 憲は、

「今までありがとう、お疲れ様」

 とだけ、言った。充希の眠った顔を近くで見ても、涙は出てこなかった。

 父に、

「男なら人が死ぬとき以外は泣くな」

 と泣きべそを見せた度、言われてきたが、幼馴染を亡くしても、泣かなくなってしまった。

 奈央はしんみりと泣き顔で、充希に話しかけていた。


 家に帰ると父も母も帰っていた。

 憲の好きなものばかり、食卓には並んでいた。今日は憲の誕生日だった。五月三日、憲法記念日。折角の誕生日も気分は乗らなかった。

 自分の部屋に戻ったらすぐに寝てしまった。


 この街のチャイムは、昔から日の入りに鳴る。

 まだ三人とも小学生だったときの、三人で遊んだ帰り道。その日もいつものように、日の入りチャイムが流れたが、どういう訳か、充希も一緒に泣き出してしまった。

「どうしたの、充希」

 泣きじゃくる充希曰く、

「こないだおじいちゃん、死んじゃった。二人も死んじゃやだ」

 とのことだ。

「私たち、死なないから、泣かないで」

 奈央はなだめようとしているが、泣き止まない。

「遠き~

 山に~

 日は、落ちて~」

 憲は歌った。チャイムの原曲、ドヴォルザーク。歌っていると穏やかな気持ちになる。

 充希は泣き止んでくれた。

 そのまま、三人で歌いながら、手を繋いで帰った。

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