第84話 笑顔とズレ
「努君、私の魔法上手くいってましたか? 失敗して変な魔法になってませんでしたか?」
「大丈夫です。上手くいっていましたよ。この目で確認しましたから、間違いありません」
僕は光によって白一色に染まってしまった視界を元に戻すべく、アクアマリンスライムに目を治癒してもらいながら葵さんの質問にそう言葉を返す。
そして、視界が段々戻ってくるのを感じつつ、会話を続行した。
「よかった……。それにしても、流石に疲れました。魔力の集中がこんなに集中力を使うものだとは思わなかったです」
「葵さんはスキルで魔力量が多いので、もしかしたらその分魔力の集中も大変なのかもしれませんね。ともかく、おかげでいい実験が出来ました。葵さん、ありがとうございます」
「いえ、私こそ。努君の役に立たせてくれて、ありがとうございます。ところで、なんで私の顔そんなにジッと見つめてるんですか? 何か私の顔についてますか?」
「いや、丁度視界が完全に戻ったんですが、その時に葵さんの奇麗な笑顔が目に映ったので、つい見惚れてしまいました。ダメでしたかね?」
僕がそう正直に白状すると、それが何かのトリガーを引いてしまったようで、僕は顔を赤くした葵さんに「だっ、ダメじゃないですけど……やや、やっぱりダメです! 努君が見惚れてるなんて考えたら、私の精神が持たないです!」と、一気にまくし立てられた。
細かい意味とかどこまで本気で言ってるのとかはさておき、とにかく僕が見惚れてるのを意識するとダメらしい。
「じゃあ葵さんにバレないように見惚れれば大丈夫ですかね?」
「ん、まあそれなら……でもそれはそれで寂しいような……。というか、そんな事出来るんですか?」
「そうですね。思考をフル回転させて全力で葵さんの意識誘導をすれば、なんとか出来るかもしれません。今だったら例えば……って葵さん、なんで笑ってるんですか」
「うふっ、ふふっ、だ、だって努君が、私に見惚れてるのがバレないようにする方法なんて、俗なことをあんな真面目な顔で説明し始めるから、可笑しくって。ああ、思い返したらまた可笑しくなってきちゃいました。うふふっ、あはははっ」
見れば、ついさっきまで羞恥で顔を赤くしてあたふたしていた葵さんが、今は羞恥ではなく、笑いで顔を赤くして思いっきり笑い転げている。
……なんだか腑に落ちない。
まぁ、楽しそうな葵さんを見れるのは、どんな経緯であれ嬉しいので別にいいのだが。
僕は表向きは少し怪訝な顔をして「そんなに可笑しいことでしたかね」などと呟きながら、葵さんの笑い声を穏やかな気持ちで聞いていた。
それから少し時間が経ち、葵さんも落ち着いてきた頃、僕は試してもらった魔法、《閃光》に関する注意点を葵さんに伝えた。
暗い場所で使った方が効果があること。
必ず自分の目を瞑るか覆うかしてから発動すること、など、本当に基礎的なことを。
一応、確認の意を込めて、念のために。
実戦でも、使えるようにするために。
そうして、《閃光》に関する話も粗方し終えた僕は、次に狙うターゲットの話をすることにした。




