第81話 人間観察
「う~ん……可もなく不可もなくといった感じですかねぇ、これは」
葵さんと一緒に昼食を食べながら人間観察をしていた僕は、その観察の結果を考察してそう呟いた。
葵さんにはいつも通り感情を読んでもらって、僕は聴力を強化して会話を盗み聞きして人間観察を行っていたのだが、その結果次のようなことが分かったためだ。
まず最初に、勇者組全体の士気が落ちているということ。
これは、別にわざわざ観察せずとも分かることではあったが、一応葵さんに確認をしてもらい、改めて確実にそうであることを確認した。
これに関しては僕の目的通りだし、なんら問題ないのだが……実は、僕が思っていたよりも士気の下がり幅自体はあまり大きくなかった。
原因としては、やはり神岡の奮闘ぶりが挙げられる。
神岡という、いわゆるみんなのリーダーが強気かつ積極的な姿勢を事件に対して見せているため、他の皆も幾許かそれに引っ張られているのだ。
残念ながら全て思い通り、という訳にはいかないらしい。
そしてもう一つ分かったことは、三人ほどリタイア者が出てきそう、ということだ。
勇者組の話を盗み聞いていて分かったことなのだが、橋川さんの死が知らされたあの訓練の時間が終わった後、自分の部屋から出てこようとしない勇者もといクラスメイトが三人いるようで、何やら「もう戦争なんかに参加したくない」と駄々をこねているらしい。
実際にどんな様子か見た訳ではないので確実な事は言えないが、話を聞いた限りではもうその三人は実戦で戦うのは不可能に近いだろう。
要はその三人は、実際に人の死というものを間近に感じてすくみあがってしまった訳なのだから。
感じるだけでそうなのに、実際に自分で出来るわけがない。
「まあ士気の下がり幅が悪いせいですぐに悪影響が出るわけでもないですし、それよりも三人勇者が戦闘不能になることを喜びましょうかね。さて、昼食も食べ終わったところで僕は言われた通り書庫に向かおうと思いますが、葵さんはこの後どうしますか?」
「私は自分の部屋でいつも通り魔法の練習をしていようと思います。こんな状況で訓練場に行くわけにもいきませんから。もう魔力切れは起こしませんから、安心してくださいね?」
葵さんの言葉を聞いて、僕は思わず苦笑いをする。
魔法の練習と聞いて魔力切れの心配をしたのが読まれたようで、心配しないよう先回りをされてしまったらしい。
ここまでされれば、僕としても葵さんを信じるだけだ。
「分かりました。では魔法の練習、頑張ってくださいね」
「はい。努君も気を付けてください」
こうして言葉を交わし合いながら、僕たちは席を立った。
そして葵さんは自分の部屋へと、僕は神岡に指定された書庫へと向かう。
普通の篠宮努になるために、【俺】に体の操縦を任せて書庫に向かわせる傍ら、僕はこれから会う神岡裕輝という男を以前こっそり[鑑定]した結果を思い返していた。
名前:神岡裕輝
種族:人間
性別:男性
年齢:十八
職業:勇者
魔力属性:光
スキル:勇者LVMAX、言語理解LVMAX、瞬間移動LVMAX、スラッシュLV1、剣撃LV1
瞬間移動LVMAX:自身、或いは触れている物体を任意の座標に即座に移動させます(任意発動)
何故よりにもよってこいつがこんなスキルを持っているのかと、僕は心の中で数回目の嘆息をする。
みんなのリーダーで、最も殺したい僕のターゲットは、最も殺しづらいスキルをこの異世界で獲得していたのだ。




