表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/198

第79話 善意の流れ

 宏和の死が伝わったときと同様、ショックを受けた様子の勇者組の皆が視界に映る。

 流石にパニックになるような奴はまだいないが、反応は前回よりも明らかに大きい。

 良い傾向だ。

 混乱が徐々に広がりつつある。


 僕としては、この混乱に付け込んで次のターゲットへの仕込みを進めたいところだが……今回、僕は特に行動を起こすつもりはなかった。

 というのも、僕はまだ残りのターゲットと接点がない。。

 そのため、迂闊に接触すると怪しまれる恐れがあったのだ。


 それに、残りのターゲットは、そもそも甘い相手じゃない。


「ウォルスさん、何か僕たちに手伝えることはないでしょうか?」


 重々しい空気の中、そう声を上げたのは神岡だ。

 クラスのリーダーの発言に、ある程度落ち着きを取り戻した勇者組の皆が注目を集める。


「手伝えること? まさか、事件の捜査のか?」

「はい。二件目の事件が起きて、犯人がまだ捕まってない以上、このままだと3件目の事件が起きてしまう可能性が高いのは自明の理です。騎士団の皆さんを信用していない訳ではありませんが、僕はこんな状況で黙って捜査の進展を待っていたくはありません」

「その心意気はありがたいが、それは――」

「ウォルス団長、私からもお願い出来ませんか?」


 突然、勇者組の中からウォルス団長の発言を遮る声が発せられる。

 声の主を確認してみると、その正体はなんと学年のマドンナこと、清水さんだった。

 

 これは……なんだか面倒なことになりそうな予感がする。


「私も、なんとかして犯人を捕まえる役に立ちたいです。このまま何もしないのは、亡くなった方に申し訳が立たなくて」


 何となくだが、周りの皆の雰囲気が変わったのを感じる。

 もうどうにもならないが、僕にとって面倒な流れが、クラスの中心人物二人によって完全に出来てしまったようだ。

 犯人を捕まえるのに協力するのが偉い、という流れである。

 

 こういう流れは本当に厄介だ。

 恐らくだが、この流れはそのうち犯人を捕まえるのに協力するのは当然という流れになり、最終的には犯人を捕まえるのに協力しないのは悪という流れになる。

 捕まるつもりは微塵もないが、動きづらくなるのは確実だろう。

 

「う~む……分かった。騎士団の方でもそれについては検討をしておく。だが、これだけは改めて覚えておいてくれ。お前たちはこの王国の最高戦力であると同時に、最高機密だ。信用出来る相手以外には絶対に正体を明かさないようにしろ。例え、活動範囲が広がろうともだ。それがお前たちの安全にも繋がる。分かったか?」


 渋い顔しながらそう言うウォルス団長に、勇者組の皆は一様に頷く。

 それを見たウォルス団長は、改めて口を開いた。


「では少し早いが、今日の訓練でこれで終了にする。今日は他に予定もない。各々自由に後の時間を過ごしてくれ。俺からは以上だ」


 ウォルス団長と今まで訓練の相手をしてくれていた騎士団員が訓練場から王城へと戻っていく。

 少し急ぎ目なのを見るに、早速事件現場の調査にでも行くのだろう。

 仕事熱心で何よりだ。

 

 さて、それはそうとして僕は何をしたものか。

 葵さんの魔法の訓練の続きをしてもいいし、残りのターゲットの情報収集をしてもいい。

 選択肢は少なくない。


 そうして少し考えたのだが、取り敢えず葵さんに合流してから決めようという考えに結局落ち着いた。

 と、いうことで葵さんの下へと【俺】を向かわせていたのだが――

 

「昼食の後、書庫に来てください。話があります」


 突然、すれ違いざまに一方的に話しかけられた。

 【俺】は驚いて反射的に振り返り、話しかけてきた相手の後ろ姿を確認する。

 

 声からしても分かっていたことではあったが、話しかけてきた相手の正体は神岡だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き、本当にありがとうございます!
楽しんでいただけましたら

↑の☆☆☆☆☆評価欄にて

★★★★★で応援してくださると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ