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第75話 愛情の中に心配は含まれるが愛情と心配は同一とは限らないということ

「……とうとうこの日が来ましたか」


 ベッドの上で窓から差し込む光を確認した僕は、起きたばかりのはずなのにやけにはっきりしている自分の目をこすりながら、一人そう呟く。

 葵さんに作戦の話をされた日から、五日後の朝が来たのだ。

 作戦決行、当日の朝が。


 僕は葵さんに作戦の話をされたその翌日から、具体的な作戦の内容を練り始めていた。

 橋川さんと葵さんが人目のつかないところで二人きりになり、尚且つ簡単に葵さんが橋川さんを殺せる状況に導き、絶対に葵さんが捕まらないようにする作戦だ。

 葵さんがどうしても自分自身でやるというのなら、絶対に失敗しない、完璧な作戦が必要だったから。


 二日後からは、コピースライムの仕込みを始めた。

 コピースライムに人間ではなく、葵さんの動きをさせる仕込みだ。

 葵さんがどうしても殺すというのなら、その身代わりが、絶対に必要だったから。


 本当は、こんなことは葵さんには絶対にやらせたくなかった。

 実際、やらせないつもりだった。

 

 葵さんは僕と同じ異常な所のある人間ではあるが、倫理観は普通の人間のそれだ。

 人を殺すなんて、ましてや友人を殺すなんて異常な事をしたら、葵さんにどんな影響があるか分からない。

 

 心配だった。

 シンプルだが、僕に残った僅かな人間性による愛情から生み出された、確かな感情。

 それが、葵さんの作戦を受け入れることを拒んでいた。


 だがしかし、僕はあの夜、少し悩んだ末に葵さんの作戦を受け入れた。

 負い目があったからというのもある。

 だが一番の理由は、これもまた、愛情によるものだ。


 愛する人が、愛ゆえに僕のためにリスクを背負ってまで変わろうとしてくれている。

 それならば、その覚悟を受け止めるのも、その覚悟の手助けをするのも、また愛情だと思ったのだ。

 その覚悟がいくら、危険なものであったとしても。

 

 僕はベッドから降りて立ち上がるといつも通り身支度を済ませ、通路の人の気配が少なくなってきたところで通路へ出た。

 

 その後、僕は葵さんの部屋の前まで移動し、誰も自分に注目していないことを確認してから、部屋の中にいるであろうコピースライムに部屋から出てくるよう指示を出す。

 すると、身なりまで整い、見た目は完全に葵さんの姿をしたコピースライムが扉を開けて現れた。

 

 このコピースライムは、葵さんに事前に頼んで部屋に待機させてもらっていたものだ。

 無論、葵さんのアリバイ作りのために。


 こうして予定通りコピースライムと合流した僕は、いつも通りの五十嵐葵と篠宮努のふりをしつつ、食堂への移動を開始した。

 

 今回は時間があったため、歩き方以外にも様々な葵さんの動きが出来るように、コピースライムに仕込みをしてある。

 具体的には会話動作、着席動作、小走り等の歩く以外の移動動作などの主な日常動作だ。

 そのため相変わらず声は出ないものの、違和感なく会話をしているふりをしながら移動をする、程度のことは可能になっている。


 ふりがバレたら問題だが、わざわざ僕たちに注目したり聞き耳を立てたりする物好きはいないし、いたとしてもすぐに気付いて対応出来る。

 そういった理由もあり、僕たちは特に怪しまれることもなく、食堂に移動することが出来た。


 普段ならば料理を受け取って朝食を食べるところなのだが、今は料理は受け取らず、ただコピースライムと共に椅子に座り、引き続き演技を続ける。

 今ここにいる目的は、あくまで葵さんがこの時間ここにいたという証拠を作るため。

 食事をするのは、本物の葵さんと合流してからだ。


 そうして少しの間待った後、葵さんに渡したリビングナイフを通じて特殊な魂が流れ込んでくるのを感じた僕は、再び移動を開始した。

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