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第70話 理性的な理想

 そうして、橋川さんとその友達と一緒にしばらく雑談をしていると、食堂にいる人は段々と減っていった。

 それに合わせて、普段なら橋川さんも他の誰かに誘われて比較的早めに食堂からいなくなるところなのだが、今日はそうはならなかった。

 どうやら私が言った事に思うところがあったようで、今日は誰も橋川さんを誘わなかったのだ。


 それならば橋川さんのことだから、自分から誰かを誘ってどこかに行きそうなものだが、なぜかそうもならなかった。

 ここから立ち去るのを躊躇っているのは読み取れるのだが‥‥‥はっきりとした理由は読み取れない。

 

 結果として、食堂には私と、橋川さんと、その他数人だけが残ることとなった。


「どうしてここに残ったんですか? いつもなら食堂からさっさと移動するのに」

「別に好きでここに残ったわけじゃないよ。ただ、誘おうと思った人がここから動かなかっただけ」

「‥‥‥私ですか?」


 意図を測りかねて直接質問すると、意外な答えが返ってきて私は少し驚いた。

 今まで橋川さんに移動のときに誘われることはあっても、今のような自由な時間のときに行動を共にすることを誘われることはなかったから。

 あくまで私は、少し気をかけられる程度の存在だったのだ。


 それがどうしてこんなことになったのかは、本人が続けて話してくれた。


「私ね、葵ちゃんに言われて初めて自分がちょっと疲れてるってことに気づいたの。馬鹿みたいな話だけど、本当にそう。それで、みんなも気を利かせてくれたし、今日はちょっと休もうと思うんだけど、一人だと寂しいから、私を心配してくれた葵ちゃんが付き合ってくれたらいいなって思ったんだ。だから‥‥‥突然で悪いんだけど、付き合ってくれるかな?」

「はい、私でよければ大丈夫です。この間付き合ってもらった恩もありますから」


 私の返事を聞いて橋川さんが笑顔を見せる。

 

 予想より早いが、私のことを頼ってくれる、理想的な展開が始まっていた。

 そう、私の胸を締め付ける、とても‥‥‥理想的な展開。


「よし、そうと決まれば早速どこか休める場所に移動しよっか。もうここにいる必要もないしね」


 橋川さんが椅子から立ち上がり、移動を始める。

 私はそれについていきつつ、会話を続けた。


「どこか休める場所って、具体的にはどこに行くつもりなんですか?」

「ん~特には決めてない。とにかく休める場所ならなんでもいいかな~」

「場所探しで疲れたら元も子もないですよ?」

「分かってるって。取り敢えず歩きながら決めよう?」


 こうして、私は[どこか休める場所]に移動することになった。

 

 具体的にどこに行くことになるのかは、まだ分からない。

 でもきっと、どんな場所であれ悪い結果にはならないと思う。

 根拠はないけれど‥‥‥橋川さんの前向きさに触れていると、罪悪感と共にそう感じるから。

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