第67話 罪悪感
「罪悪感が消えないんです。努君のためにやっていることなんだから、悪い事なんて何一つないはずなのに。いくら割り切ろうとしても、友達を騙したり、利用したりすると、心が少し痛んじゃうんです」
「それが悩み、ですか?」
「……はい」
「そうですか。では、そういう類のことは今後は僕が――」
僕が葵さんの悩みの種を引き受ける案を喋ろうとすると、突然口に指を当てられ、発言を途中で遮られる。
すぐにその指は離されたものの、僕が喋る間もなく、今度は葵さんが喋り始めた。
「それはダメです。そうしたら、私は努君の役に立てなくなります」
「しかし」
「このままじゃ、私は努君の足を引っ張り続けます。そんなのは絶対に嫌なんです」
「……どうしたいんですか?」
「割り切る機会が欲しいんです。具体的には――」
僕は、その後の葵さんの話を聞いて目を見開いた。
なぜなら、葵さんが話した内容が、まるで僕が作った作戦のようだったからだ。
明らかに違うのは、葵さんへの負担が大きいということだけだ。
「私、約束しました。努君のためならなんでもするって。でも、このままじゃ嘘をついたことになっちゃいます。だから、お願いします。今日最後のお願いです」
「……分かりました。これで割り切れなかったら諦めてくださいよ」
「! はい」
葵さんは僕の答えを聞いて、笑みを浮かべて返事をする。
それに対し、僕は苦笑いを浮かべながらこう言った。
「さっきまでとは全然様子が違いますね」
「もう決心がつきましたから。努君のおかげですよ?」
「それは……喜ぶべきなんですかねぇ」
葵さんの返事を聞いた僕はそう言った後、さらに苦笑いを深める。
まぁなんにせよ、次のターゲットは決まった。
計画は変更になるが、この程度の誤差はどうにでもなる。
「さて、時間も時間ですし、いい加減寝ましょうか。詳しい話はまた後にしましょう。その悩みが解決するように」
「分かりました。じゃあ、また明日、努君」
そうして、僕たちはまたベッドに仰向けになって寝始めた。
しかし、周囲から見たら僕たちは少々可哀そうなことになりそうだ。
せっかく再会したというのにお互いもっとも親しい友人を失うことになるとは。
無論、実際にはまったく違うわけだが。
しばらくして、葵さんが寝息を立て始めたのを確認した僕は、そっとベッドを出た。
そして、同じくそっと部屋を出る。
その後、目撃者が誰もいないことを確認してから、僕は自分の部屋に戻った。




