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第61話 友達

 結局、翌朝になっても頭の中の整理なんてつかなかった。


 ストレスからくる幻覚だと思おうとしたが、無理だ。

 あれはまぎれもなく現実だったと、体が知らせてくる。


 仕方ないので、この件はもう考えないことにした。

 他の悩み事と同じように。

 考えなければ、悩むこともない……誰かに指摘されない限りは。


 窓から日の光が入ってくるのを確認した俺は、とりあえず今の自分の顔を確認することにした。

 疲れた顔をしたまま出て行って、心配されたりしたら面倒だ。

 

 部屋の壁にある鏡の前に立ち、自分の顔をその鏡に映すようにする。

 ……思ったよりひどくはない。

 目の下にクマとかが出来ているわけでもないし、ひとまず大丈夫そうだ。

 流石に多少疲れは出ているけど、病み上がりということで十分誤魔化せるレベルだろう。


 その後、俺はいつも通り身支度をして部屋を出た。

 そしていつも通り食堂へと向かう。

 こうして今日も、いつも通りと化したこの世界での日常を送るはずだったのだが――


 篠宮の奴と一緒に朝食を食べていたときに、それは始まった。


「昨日午後の訓練休んでたが大丈夫か? 宏和」

「おう、もう大丈夫だ。心配かけたな」

「本当に、大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。ただの体調不良だぜ? そんなに心配することねえよ」

「……身に覚えのない自分の目撃情報」


 俺の食事を口に運ぶ手が止まる。

 考えるのを止めたことを、否応無しに考えさせられる。


「やっぱりか、本当の休んだ原因はこっちだろ」

「……お前には関係のない話だよ」

「いや、ある」

「ねえって」

「いや――」

「ねえって言ってるだろ! もう大丈夫だって言ってるじゃねえか!」


 食堂にいる他の皆の注目が集まる。

 

「話の続きは別の場所でしよう、いいな?」

「ぐっ……ああ」


 いくらイライラしていてもいて、流石にこのままではまずい事は分かる。

 俺は一旦篠宮に従い、場所を変えることにした。


 料理を返してから移動し、城の中でも人通りの少ない通路で立ち話をする。


「どうしてそんなにこの話を聞くんだ? お前と何の関係があるっていうんだ?」

「俺はお前の友達だ。友達の悩みを聞くのは当然のことだろ?」

「っ!」


 また頭の中が爆発しそうになって、イライラして、怒鳴ってしまうんだろうと思っていた。

 だが、不思議と言葉は出てこなかった。


 今まで俺にこんな友達がいただろうか。

 はぐらかされても、怒鳴られてもなお俺の悩みを聞こうとする友達が。

 俺と真剣に話をしようとする友達が。


 こいつとなら……真面目に話が出来るかもしれない。

 そう思った。

 そう思えた。


「篠宮、俺はお前に相談をしていいのか?」

「もちろんだ。友達だからな」

「今からでも、構わねえか?」

「構わないが……長くなりそうか?」

「ああ」

「じゃあ座って話せた方がいいだろ。また移動して椅子がある場所に行こうぜ」

「……ありがとう」


 俺の礼の言葉を聞いて、篠宮は嬉しそうに微笑んだ。

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