第6話 魂は食べ物
何とか僕は、無事に三人の侵入者を始末することに成功した。
自分が考えた通りに侵入者が動いて、トラップに引っ掛かる様を見るのは中々楽しい。
思わず少しにやけてしまった。
そう感じるのは、ダンジョンマスターとしての本能なのかもしれない。
そんな事を考えていると、頭の中に『あなたの性質じゃないですか?』という声が聞こえてきたが、別に僕はサディストでもなければ戦闘狂でもない。
ただ、彼らがちょっと滑稽だと思っただけである。
最後の一人にリビングソードを弾かれた時は少しヒヤッとしたが、よくよく考えたらあれは魔物だ。
逃げるふりをしながら指示を出すことで、期せずして挟み撃ちをすることができた。
初めて人を殺した訳だが、特に躊躇いなどは感じなかった。
人間としての本能的な忌避感などがあると思ったが、案外あっけないものだ。
侵入者を殺した時、同族殺しの嫌悪感の代わりと言っては何だが、ダンジョンマスターになった影響か、侵入者を殺した時に自分に何かが吸収されていくのを感じた。
あれがソウルポイントを得る感覚だったのだろうか。
っと、そんなこと考えている暇があるなら今の戦いの経験を完璧に自分の物にしなければ。
何せ剣での戦闘経験のない僕にとっては、不意打ちも貴重な戦闘データなのだから。
僕はそんな事を考えながら、スイッチを切り替えた。
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さて、戦闘の振り返りもそこそこに戦利品確認をしていきたいと思う。
実質死体漁りなので、余り気持ちのいいものじゃないが。
『また戻りましたか……侵入者の死体を還元しますか? 魂の宿る動物の体には死体になった後も魂の残骸がのこっているので、多少はソウルポイントの足しになりますよ?』
ふむ、そんなことが出来るのか。
最初小声で何を言ったんだろうと思いつつも、俺は死体を還元してもらった。
還元してもらうと、侵入者の所持品だけが残ったので、早速整理していきたいと思う。
まずは皮の軽鎧三つ(血濡れ)。
他の人の汗と血が染みついている鎧を着る気にはならないので、ダンジョンコアのある部屋(以降管理室と呼ぶ)に置いておく。
まぁ、そもそもサイズが合わないのだが。
次に片刃のナイフが四本。
ナイフを差しておくベルトも三つあったので、一つ拝借して腰に二本ナイフを装備することにして、残りは管理室行きにする。
そして片手剣(鞘付き)が二本。
こちらは問答無用で管理室の肥やしにする。
最後に鞄にぎっしりと入っていた青々とした草……どうしてこんなもの集めてたんだろう。
何かに使えるんだろうか。
『それは薬草です。加工すれば傷を治す薬になります』
なるほど、それは使えそうだ。
加工する技術はないが、価値があるものなのは間違いない。
俺は他の物よりちょっと丁寧に、薬草を管理室に運ぶ。
他にも衣服などこまごまとした物があるが、今はいちいち確認する時間的余裕はないので、取り敢えず管理室行きだ。
こうして、おおまかな物品の整理は終わったので、肝心のソウルポイントの確認をしようと思う。
ダンジョンのステータス画面を開いて、表示されたソウルポイントの値は378ポイント、つまりは今回の防衛線では350ポイントの収入だ。
その値から鑑みるに、あいつらの魂の質は普通よりちょっと高いぐらいだったようだ。
一通り整理と確認が終わったところで、当初の目的である食料の確保をしようとしたのだが、ある事に気が付いた。
腹が減っていないのだ。
ダンジョン防衛をする前は確かに食事を求めていたはずなのだが……
『ああ、食事ならしばらくいらないと思いますよ。侵入者の魂の一部を食べているので』
「え? それってどういうことだ?」
言っている意味を理解できず、俺は軽く慌てた。
『詳しく説明するには、ダンジョンマスターに殺された人間の魂の行き先について解説しなければなりません。まず、前に話したように魂の大部分はダンジョンに吸い込まれ、ソウルポイントになります。そして魂が宿っていた生物の死体に多少魂の残骸が残ります。ここまではいいですね?』
「はい」
『先ほど話した以外に、魂には宿っていた生物の経験がくっついている場合があります。これをこの世界では一般的にスキルというようですが、それをダンジョンマスターは食べて、自分のものとすることができるんですよ。死体に残ってしまったり、ダンジョンにまとめて吸い込まれたりして、食べられない事もあるようですが』
俺はダンジョンマスターになったはずだったのだが、いつの間にかサブ職業にソウルイーターが追加されていたようだ……などと多少現実逃避気味の思考をした。
遠い目をしながら。
大体「経験を食べるってどういうことだ」だとか「栄養どうなってるんだ」とか色々ツッコミたいところはあるが、「異世界だし地球と常識が違うんだろう」と無理やり自分を納得させて落ち着かせる。
頭の中に『普通の食べ物が食べられなくなった訳じゃないですよ?』という謎のフォローが入るが無視である、無視。
まぁ心当たりはある。
【僕】が侵入者を殺した時、魂はダンジョンに吸い込まれるはずなのに自分に流れ込んでくる何かが確かにあった。
スキルに関してもだ。
最後の一人が何かを言いながら振った斬撃は、やたら威力が高かった。
あれがスキルなのかもしれない。
試しに自分のステータス画面を開いてみる。
すると……
名前:篠宮 努
種族:人間
性別:男性
年齢:十八
職業:ダンジョンマスター
魔力属性:無
スキル:スラッシュLV1
いつの間にか、スキルという項目が増えている。
俺はリビングソードを手に取り、恐らく最後に殺した侵入者が持っていたであろうスキルを試してみることにした。
「スラッシュ」
そう言ってリビングソードを振ると、明らかに普通とは違う風切り音が鳴った。
どうやらスキルがしっかりと発動したようだ。
その後も色々試してみて、分かったことが二つある。
一つ目は、声に出さなくても使おうと思えばスキルは普通に使えるということ。
二つ目は、スキルを使うと体力そのものを消費するということだ。
流石に無限に使えるわけではないらしい。
気づかずに使いまくって、俺はへとへとになってしまった。
ちなみにLVについてはよく分からなかった。
今は1だが、何かすれば2に上がるのだろうか。
休みながら、スキルを使っていた侵入者のことを思い返していると、あることに気が付いた。
言葉、通じるのだろうか。
異世界だけど神様パワーで通じるんじゃないかと勝手に思っていたが、侵入者の言っている事が分からなかった事を鑑みるに通じない可能性が高い。
どうしたものかと考えていると――
『私がこの世界の言語を教えましょうか? 基本的なものしか分かりませんが』
「あなたが救いの神か……。いや、冷静に考えてみると邪神(地球世界の神)の落とし子か?」
『その呼び方は不本意です』
「それはともかく、教えてくださいお願いします」
かくして、俺は異世界言語講義を聞きつつ、ダンジョンの改造に励むことになった。