第60話 悩み事
篠宮の奴と別れた後、他の友達と合流してしばらく雑談をした後に、俺は自分の部屋に戻った。
時間も時間なので、直ぐにベッドに入る。
ここ最近、物騒な話ばかりだったのであいつが帰ってきてくれて助かった。
暗い雰囲気は苦手だからな。
暗い雰囲気だと会話が弾まない。
会話が弾まないと……俺は悩み事を思い出してしまう。
昔からそうだった。
友達は多いが、誰とも踏み込んだ話が出来ない。
俺の親は俺が幼い時に離婚したらしいのだが、高校生になった今でも俺はその理由を知らない。
小学生のとき一回その理由を母に聞いたことがあるのだが、嫌な空気になった挙句、母は質問には答えてくれなかった。
あのときはとても……怖かった。
思い返せばそのときからだ、踏み込んだ話が出来なくなったのは。
今では自分からそんな話を切り出すなんてことは当然出来ないし、重い話になりそうになったらつい冗談を言ったりおどけたりしてしまう。
こんな状況だ。
俺にだって悩みの一つや二つはある。
ただ、この悩みを誰かに話すことは多分永遠にないだろう。
暗い感情を押し込めて、溜め込み続ける。
いつか限界が来ると分かっていても。
だって、怖いのは嫌だから。
……こんなことを考えていたら、上手く眠れなさそうだ。
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篠宮が帰って来てから三日が経った。
あいつは今では、すっかり前からいたみたいに訓練に溶け込んでいる。
一方俺は……悩み事が一つ増えた。
明らかにおかしなことが起きているのだ。
行った覚えのない場所で、俺を見かけたと友達に言われることが何度もあった。
見間違いじゃないかと言ったが、間違いなく俺だと言う。
不気味だ。
まるで俺が二人いるみたいじゃないか。
一回篠宮の奴に「何かあったのか?」と聞かれた。
俺は「いや、何もねえよ」と答えた。
俺が真面目にこんなことを話したところで、どうせ信じてもらえないだろう。
そして、嫌な空気になるだけだ。
不気味な話だが、別に実害があるわけじゃない。
無理に解決する必要もないだろう。
今日を振り返りながら、すっかり慣れた自分の部屋のベッドに潜り込む。
……今夜も浅い眠りになるかもしれない。
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篠宮が帰って来てから四日目、嫌な予感が的中した。
見つけてしまったのだ。
城の廊下を歩くもう一人の自分を。
少なくとも姿形は俺と全く同じだった。
それ以上のことは、確かめられなかった。
本来なら追いかけて問い詰めるなりするべきだったのかもしれない。
だが、怖くて足が震えて動かなかったのだ。
あまりに非現実的で……不気味だったから。
ハッとした時には、もう一人の俺は消えていた。
いい事なのか悪い事なのかは分からないが、その時周りに人はいなかった。
昼の出来事だったのだが、ウォルス団長に頼んで体調不良で午後の訓練は休ませてもらうことにした。
少し、頭の中を整理する時間が欲しかったのだ。
そうして部屋の中に引き籠って、みんなに心配をかけさせないように夕食を食べて、また引き籠って今に至る。
もう大体半日経っているわけだが、頭の中の整理はまだ終わる気配がない。
今夜は眠れないかもしれないな。




