第58話 繋がり
「確認したい事、ですか?」
「はい、今から名前を言う人たちの僕に対する感情を確認しておきたいんです。朝倉、神岡、清水さん、九重先生、ウォルス団長……以上の人たちですね。この人たち以外でも、僕に対して敵対的な感情を持っている人がいたら教えてください」
「了解です。でもなんでこの人たちが選ばれたんですか?」
「それはですね、この五人が勇者たちを繋ぎとめる接着剤の役割を果たしているからですよ」
この五名は勇者同士のコミュニケーションの中心にいる。
朝倉は持ち前の明るさで。
神岡はリーダーシップで。
清水さんは美貌と笑顔で。
九重先生は先生という立場で。
ウォルス団長は訓練係という立場とその人柄で。
それぞれ理由は異なるが、この5人は人を集める能力を持っているのだ。
まぁ、だからといって彼らが完璧な訳ではない。
朝倉のように、心に弱点がある奴もいる。
弱点が見つかっていない奴もいるが……ないなら作ればいい。
僕はこれから、城内という閉鎖空間で事件を起こす。
事件が起きた後、犯人が城の外に出た形跡がないと分かったらどうなるだろうか。
嫌でも内部犯を疑わなければならなくなるだろう。
そして、勇者たちも容疑者に含まれるようになるだろう。
そうなったとき、勇者同士のコミュニケーションは邪魔だ。
疑いを晴らし合ってしまう。
僕としてはお互い疑心暗鬼になってくれた方が楽に狩りが出来る。
だから――
「先に勇者同士の心の繋がりを出来るだけ切っておきたいんです。そのために、この5人を優先して殺しておきたい。そのための事前確認というわけです」
「……分かりました。じゃあ、覚えてる限りの努君に対する彼らの感情を話しますね」
こうして、僕はまた一つ情報を手に入れた。
これでまた、計画はより確実なものになったはずだ。
「確認ありがとうございます。王城に来てからは葵さんに頼りっぱなしですね、僕は」
「頼ってもらえて私は嬉しいんです。だからいいんですよ。……努君、ウォルスさんがこっちに来てますよ」
葵さんに小声でウォルス団長の接近を知らされる。
もう少し話をしたかったが、僕の状態のままでウォルス団長に会うわけにはいかないので、僕は仕方なくスイッチを切り替えた。
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「おう篠宮、手続きが終わったから部屋の案内をしに来たんだが……今はまずいか?」
「いや、大丈夫です。じゃあ葵さん、また今度」
「うん、また今度ね、努君」
残念ではあるが、【僕】が大事なことはもう大体話したし、ここで無理に会話を続行しなくてもいいだろう。
話そうと思えば機会はいくらでもある。
ウォルス団長を待たせるのも心証が悪くなりそうなので、あまりやりたくない。
俺は料理が乗っていた皿を厨房に返すと、部屋の案内をするというウォルス団長について行った。




