第55話 観客
俺が振り向いて確認すると、予想通り大勢の足音の正体は勇者組のみんなだった。
彼らは俺の近くにまでやって来ると、次々と言葉をかけてくる。
「努君! 大丈夫でしたか? 怪我とかありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。少し鎧や服が傷ついたが、俺自身は別になんともない」
「よかった……とにかく、これでようやく努君も勇者の一員ですね」
葵さんの言う通り、俺は勇者として認められた。
【僕】が降参した後、ウォルス団長が「ひとまず合格だ。お前を勇者として認めよう」と声をかけてくれたので、それは間違いないはずだ。
ちなみにそのウォルス団長だが、今はもう訓練場にはいない。
実は先ほどの団長の台詞には続きがあり、「俺は色々とお前に関する手続きがあるからそれをしなきゃならん。俺がいない間にお前は水入らずで再会を喜んでおけ」と言ってさっさと城の中に戻っていった。
力を示せだのなんだの言ってはいたが、結局のところ葵さんの言う通り情に厚い人なのだ。
さっき俺に経緯を話させたのも、模擬戦をさせたのも、本当にそういう決まりがあって仕方なくだったのだろう。
「イチャつくのもいいけどよ、俺たちのことも忘れないでくれよ? 一応クラスメイトなんだからさ」
「イチャついてなんかないです! 努君の心配をしてただけですから!」
「忘れるわけないだろ? 特にお前みたいお調子者は忘れたくても忘れられない」
「おいおい、それってどういう意味だよ」
葵さんの次に話しかけてきたこいつの名前は朝倉宏和。
先ほど俺が言った通り、中々のお調子者だ。
そして、俺の友達でもある。
とは言っても、こいつはクラスメイト全員と友達みたいに接するから何とも言えないが。
「まあそれはさておいてだな、まずは俺とか友達に挨拶する前に先生に挨拶してきたらどうだ? あのイケメン神岡も頼りにはなるが、なんやかんやで一番頼りになるのは大人だしな」
「ん~……分かった、取り敢えずそうさせてもらうよ。じゃあまた後でな」
「あいよ。後で何をしてたのか聞かせてくれよ~」
少し考えた後にそう言って、宏和のところから離れた俺は、次々と話しかけてくるクラスメイトを適当にいなしつつ先生のところへと向かった。
「お久しぶりです、九重先生。今までご心配をおかけしました」
「あら、友達とはもういいの?」
「いや、先に先生との挨拶をしておこうと思いまして」
「別に先生だからって気を利かせなくていいのよ? この世界では私が教えられることなんてほとんどないんだから」
そう言って少し悲しげな表情を浮かべたこの先生の名前は九重真由子。
俺のクラスの担任の先生だ。
俗にいうお姉さん系の美人で、その容姿から男子生徒に人気があった。
授業に関する評判は、普通といったところか。
今は勇者組唯一の大人ということで、色々と頼られたり、ウォルス団長と相談事をしたりと、結構多忙なようだ。
そのストレスでちょっとネガティブになっているのかもしれない。
取り敢えず、今は普通に励ましておくことにする。
「そんなことないですよ。みんなからも頼りにされてるみたいじゃないですか。あまり自分を卑下しないでください」
「はぁ、そう言ってもらえると助かるわ。ごめんなさいね、変な事言って。私はもういいから友達と話をしてきたら? きっと皆喜ぶわよ」
「分かりました。では、俺はこれで」
言われた通り、俺はクラスメイトとの挨拶を再開することにした。




