第53話 仮面を被る仮面
ウォルス団長と話をしている間に、[篠宮努が見つかった]という話が王城内にだいぶ広まっていたようで、訓練場に移動する間に勇者組がほとんど集まって来ていた。
が、俺に話しかけてくるクラスメイトはいない。
言わばまだ俺はウォルス団長による試験中。
真剣そのものであり、とても会話をするような空気ではないのだ。
そんな微妙な空気の中、俺たちは訓練場に到着した。
訓練場とはいっても、何か特別なものがあるわけではない。
壁に囲われていること以外は、学校のグラウンドとさして変わらないような場所だ。
そこに到着して早速、ウォルス団長が言葉を発する。
「さて、本来ならスキル[鑑定]持ちの奴にお前を鑑定してもらって勇者かどうか確かめるところだが、生憎今はそのスキル[鑑定]持ちの奴がいない」
うん、【僕】が殺しちゃったからね。
「そこで、今回は俺が直接その力を確かめたいと思う。要は模擬戦だ」
「……俺、対人戦の経験は無いんだけど」
「冒険者として活動していたんだろう? 魔物との戦闘経験があれば十分だ」
「武器はどうするんだ?」
「その腰に差してるやつを使ってかまわんぞ。何、俺の心配はいらん。伊達に騎士団長をやってるわけじゃないからな」
ちなみに今の俺の恰好だが、前回王都に来た時と大して変わらない恰好だ。
唯一違うのは外套のデザインで、色が茶色になっている。
以前王城に侵入した時、黒い外套を着て逃亡したところを見られているため、念のための用心だ。
さて、ウォルス団長との模擬戦が始まろうとしているわけだがどうしたものか。
この模擬戦の目的は、俺が勇者としての力を持っているか確かめるというものなので、本来の実力を隠して俺がそのまま戦ってもいいわけだが……
俺は、スイッチを切り替えることにした。
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今回の【俺】の設定は、今までの中でかなり僕に近い。
頭の能力は僕と同等だし、選別はしているものの、僕と目的や経験をかなり共有している。
ただ勇者を演じさせるだけならば、基本は学生時代の【俺】にした上で自分のことを勇者だと完全に信じ切っている人格にしてもよかったのだが、そうはしなかった。
そうしてしまうと僕が細かい指示を出せなくなり、臨機応変に対応が出来なくなるからだ。
最終的には、勇者[篠宮努]の人格ではなく、勇者[篠宮努]を完璧に演じる人格を作った。
こっちの方が僕の指示に応じて臨機応変に動いてくれるし、何かと僕の目的に沿った行動をしてくれるので便利だからね。
……【俺】に関する話はこれくらいにして、今の話に移ろう。
ウォルス団長との模擬戦だが、今回は僕が出て本気で戦うことにした。
もちろん、リビングナイフは使わないし、勢い余って殺さないように気を付けつつではあるが。
どうして本気で戦うことにしたのかというと、今の自分の実力がどの程度か確かめるいい機会だと思ったからだ。
前にAランク冒険者と戦ったとき以来、僕はまだ大した実力者と戦っていない。
だから、今の自分の限界を把握出来ていないのだ。
そんな状態で実戦を行うのは些か不安が残る。
その点、ウォルス団長は間違いなく実力者だ。
こっそり鑑定をしたのだが、その結果からもそれが分かる。
名前:ウォルス・ハーヴェイ
種族:人間
性別:男性
年齢:四十六
魔力属性:無
スキル:スラッシュLV4、ストライクLV4、剣撃LV3、頑健LVMAX
頑健LVMAX:全身の体力を向上させます(常時発動)
僕が持っている剣関連のスキルをほとんど持っていて、おまけに頑健という普通に強いスキルも持っている。
相手にとって不足はないだろう。
お互い模擬戦の準備を始める。
ウォルス団長は鉄鎧を着こみ、僕は背嚢を訓練場の隅に置く。
そして、ウォルス団長は一振りの長剣を、僕は双剣を抜いて訓練場の中央で向かい合った。




