第52話 偽る
「それをしたら、俺はどうなるんだ?」
「勇者として王国に迎えられることになる」
「それ以外に方法は?」
「ない。まず第一に、勇者である五十嵐を王城の外に住まわせるわけにはいかない。第二に、今のところ勇者の知り合いというだけの一般人であるお前を王城に住まわせるわけにはいかない。だから、お前が勇者として王城に住む以外に方法はないんだ」
ウォルス団長の言葉を受けて、俺は思案を始める。
【僕】の目的は勇者として王城に住むことだ。
なので、さっさと肯定してしまってもいいところではあるのだが、勇者になるというのは戦争に参加するのと同義だ。
そして、そう簡単に戦争に参加することを肯定する人間はまずいない。
だから、怪しまれないように悩む。
表情を歪ませ、悩むふりをする。
そして、俺は悩んだ末に結論を出したかのような言葉を発した。
「分かった、その方法を選ぼう。また葵さんと離れ離れになるなんていう選択肢はないしな」
「ありがとう。そうと決まればさっさと話を進めさせてもらおうか。早速で悪いが、まずはこれまでの経緯を説明してもらっていいか?」
「俺が説明し終わったらそちらの経緯も聞かせてくださいよ」
そう前置きした上で、俺は【僕】があらかじめ用意した話を喋り始めた。
この【僕】が用意した話についてだが、基本的な内容は本当のこれまでの経緯そのものだ。
ただ、知られてはまずいところはしっかり内容を変更してあって、侵入者を殺して手に入れた物をダンジョン探索で手に入れた事にしたり、数々の殺人をなかったことにしたりと……まぁ、結構な量があるが、なんとか辻褄が合うように内容を改変してある。
流石に違和感が多少残っているとは思うが、そこは言いくるめLV2を発動しながら話をすることによってカバー出来たはずだ。
もし俺の話の違和感に気づいたとしても、今大忙しであろう騎士団に、俺の話の裏付け調査をする余裕があるかどうかは疑問だが。
「ふむ、気が付いたらダンジョンの目の前にいた、か。そんな場所に召喚される勇者なんぞ聞いたことがないが」
「んなこと俺に言われても困る。どうしてこんな風に召喚されたのか一番知りたいのは俺だ」
「……それもそうか。まぁ、後でエルヴィスに聞いてみるとするか」
「ん? そのエルヴィスっていうのは何者なんだ?」
「ああ、他の勇者のみんなは嫌でも覚えていると思うが……お前は知らないよな」
既に葵さんから何者かは聞いているが、今俺が演じている立場では知らない人物なので、今の内に質問をしておく。
「エルヴィス・ラムド。この王国が信仰するアルスリア教の大司教をやっていて、今回の勇者召喚を主導した爺さんだよ」
そう、こいつは【僕】が殺さなければならない勇者の召喚を主導した男。
そして、いずれ敵対する可能性が高いアルスリア神を信仰するアルスリア教のトップだ。
相当警戒しなければならない相手である。
「正直この爺さんとはあまり馬が合わなくてな……っと、今は俺の愚痴なんて話してる場合じゃなかったな。約束通り、こっちの事情についても説明させてもらうとしよう」
エルヴィスの話と同様、こちらも既に葵さんから聞いた話だが、後から「何故そのことを知っている?」とならないように、しっかり話を聞くふりをする。
……演じるのって、結構大変だ。
「――ってのがこっちのおおよその事情だ。何か質問はあるか?」
「そちらの事情に関しては特にはない。それで、あと俺は一体何をすればいいんだ?」
「そうだな、あとは勇者としての力を示してもらわなければならないわけだが……取り敢えず訓練場に移動するか」
こうして、俺たちは食堂から訓練場に移動することになった。




