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第50話 開演

 王城の正面入り口に到着してから、少しの間待っていると、私服を着たウォルス団長がやって来た。

 鉄鎧を着ている姿しか見たことがないので、なんだかちょっと新鮮だ。

 まぁ、剣は相変わらず腰に差していたけれど。


「待たせてすまん。俺も立場上色々と準備が必要でな」

「いえいえ、そんなに待ってないですよ。それより、葵ちゃんの頼みを聞いてくれてありがとうございます。ウォルスさん、葵ちゃんのこと気にかけてあげてくださいね。あの子、気丈にふるまってはいるけど、最近大切な人と離れ離れになってるから」

「……それは、召喚のせいか?」

「召喚のせいじゃないんです。召喚のせいなら元の世界に帰れれば再会出来るという希望があったんですけど……」

「分かった。心に留めておく」


 ウォルス団長が私たちに合流する前に、橋川さんがウォルス団長の方に小走りで向かって、少し私たちから離れたところで会話を始めた。

 それも、途中から小声で。


 何を話しているか聞き取ることは出来なかったが、私は人を見ればその人の感情の変化が分かる。

 二人の感情の変化から、何を話しているかおおよその予測はついた。

 話が終わった後、ウォルス団長の私を見る目が変わったのが決定打だ。


 多分、橋川さんが私と努君のことでも話したんじゃないかな。

 作戦にはむしろ都合がいいけれど……またちょっと、罪悪感を感じてしまう。

 そんなの感じてたら、足手まといになっちゃうのに。

 どこかで割り切らなきゃ。


「他のみんなも待たせてすまんな。時間も勿体ないし行くとするか」


 橋川さんとの話を終え、今度こそ私たちと合流したウォルス団長がそう言う。

 その後、私たちはウォルス団長の言葉を肯定して、王城の外へと向かった。


 +++++++++


 まだ真昼までには時間があるので、勇者像には向かわず、みんなで適当に街をぶらぶらと歩いて回る。

 使い放題とまではいかないものの、お金をそれなりに王国から貰っているので、皆買い物を主に楽しんでいるようだ。

 かくいう私も、それなりに買い物をした。

 服と、小物と、あと……魔法の指南書。

 

 魔法の指南書なんかを買っていることから分かるように、私……というか私たち勇者は、魔法を使うことが出来ない。

 スキル[勇者]によってかなりの魔力を保有しているのにも関わらずだ。

 何故か?

 魔力を自由に操ることが出来ないからだ。


 当然といえば当然のことで、今までになかった新たな体の部位を、いきなり元々あったかのように操るなんて無理に決まっている。

 だから、努君がすでに魔力を自由自在に操れると知ったときは結構驚いた。


 私は女だし、元々運動があまり得意な方ではないので、スキル[未来視]があるとは言っても、あまり近接戦では役に立てそうにない。

 だからせめて、魔法の面では役に立ちたいという一心で魔法の指南書を買った。


 幸いなことに、私の魔力の属性は比較的優秀らしい光属性。

 早く魔法を使えるようになって、もっと努君の役に立てるようになりたい。


 そうして街を回っていると、あっという間に時間は過ぎていき、いつの間にか昼頃になっていた。

 ……そろそろ勇者像に行ってもいいかもしれない。


 私は集団の前方に移動して、集団が勇者像の方に移動するようにそれとなくリードを始める。

 その後は特に誘導に失敗することもなく、無事勇者像付近に到着することが出来た。


 勇者像は、城下街の中でも一際大きい広場の中央にある、初代勇者の姿を模した像だ。

 今初めて実物を見たわけだが……予想通り日本人だった。

 同じ日本人として嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えない気持ちだ。


 それはさておき、本来の目的である作戦の方に移ろう。

 まずは、広場にいる大勢の人の中から努君を探し出す。

 

 ……見つけた。

 広場の中央付近で、台座の上にある勇者像を見上げている。

 いかにも[勇者像を観察しています]といった様子だ。


 努君を見つけたところで、私はイメージトレーニングを繰り返した演技を始めた。

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