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第49話 騎士団長の憂鬱

「入って来て構わないぞ」

「失礼します」


 部屋の中から返事が聞こえてきたので、私は扉を開けて部屋の中に入る。


「五十嵐か、何か用事か?」

「はい、今日数人で街の方に行く予定なので、その申請をしに来ました」

「そうか、今日は訓練も休みだからな、気分転換にもちょうどいいだろう。嫌な事件もあったしな……いや、すまん。忘れてくれ」

「いえ、気にしないでください」


 嫌な事件とは、王城内で努君が起こした殺人事件のことだろう。

 あの事件は、今のところは身の危険はないと思っていたクラスメイトたちに大きな衝撃を与えた。

 今のところそこまで実害は出ていないが……この事件のことを口に出すのは、私たちの間ではタブーになっているのは確かだ。


 しかし私たちがそんな状況でも、ウォルス団長はそういうわけにもいかない。

 主な捜査は副団長に任せているようだが、騎士団長という役職上、事件に関わらないわけにはいかないだろうから。

 口を滑らせてしまうのも仕方ない。


「それと、一つ頼み事をしてもいいですか?」

「ん、何だ?」

「ウォルスさんにもついてきて欲しいんです。その、街の方に。ウォルスさんがいると心強いので」

「外出にか? そうだな……分かった、俺もついていくとするか。いや、正直助かった。最近いい知らせがあまり無くてな。俺も気分転換がしたいところだったんだ。これを口実に、外出させてもらうことにしようかな」


 そう言うと、ウォルス団長はその顔にうすら笑いを浮かべた。

 一方、私は堂々と口実宣言をされて苦笑いを浮かべるしかない。


 [いい知らせがない]とウォルス団長は言ったが、恐らくは[悪い知らせが多い]というのが実のところなんじゃないかと思う。

 努君は王都でも人を殺したと話していた。

 それも、主に王城に出入りする衛兵を。

 私たちには伝えてられていないが、当然この件も騎士団が事件として調査しているはずだ。


 しかし、努君が捕まっていないということはその事件の犯人も捕まっていないということ。

 街でも王城でも事件が起きているが、どちらも犯人を捕まえることが出来ていない。

 犯人を捕まえる責任がある騎士団としては、中々厳しいところがあるのだろう。

 忙しい中、気分転換がしたくなるのも仕方のないことなのかもしれない。


「ともかく、引き受けてくれてありがとうございます。待ち合わせ場所ですが、私たちは城の正面入り口付近で待ってますね」

「おう、色々準備があるからすぐにとはいかないが、出来るだけ早く済ませてそこに行く」

「了解です。では私はこれで失礼しますね」


 こうして、私は部屋を出た。

 これで準備の第二段階もほとんど完了。

 思ったよりあっさりとウォルス団長が頼み事を引き受けてくれて助かった。

 後は橋川さんにこのことを伝えて、外出するメンバーが全員合流するのを待つだけだ。


 食堂に戻ると、橋川さんが数人のクラスメイトと談笑していた。

 どうやらもう友達を誘い終わったようだ。

 流石の手際である。


「お待たせしました、橋川さん」

「葵ちゃんおかえり~。ちゃんと外出申請出来た?」

「無事出来ましたよ。ただ一つ伝えたいことがあって」

「うん? 何かあった?」

「ウォルスさんにも一緒に来ないか誘ったんです。一緒に来てくれたら心強いかなって……嫌だったらすみません」

「ううん、全然大丈夫だよ。むしろ大歓迎。ウォルスさんのプライベートな姿も気になるし……みんなも大丈夫だよね?」


 周りのクラスメイトたちが無言で頷く。

 

 橋川さんって本当に人望があって優しい。

 私から見ても、その優しさに裏はない。

 本当に、純粋な優しさなのだ。

 

 そして、私はその優しさと人望を利用している。

 いけないことだとは、なんとなく分かっている。

 だけど、私は躊躇うわけにはいかない。

 躊躇ったら足手まといになるから。


 私はほんの少し、申し訳なさを感じながらも、みんなと一緒に王城の正面入り口へと向かった。

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