第47話 舞台裏
「改めて本当にすみません。起こし方といい時間帯といい」
「気にしないでくださいって言ってるじゃないですか。努君の苦労に比べたら、こんなの全然大したことじゃないですから」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
部屋に入った後、睡眠を妨げたことを改めて謝罪する。
仕方がなかったとはいえ、スライムに起こされるというのは中々の悪夢だろう。
現実で起こしてしまったわけだが。
ともかく、許してもらえてなによりである。
「では、切り替えて作戦会議を始めましょうか。まずは人間関係の調査結果を聞いてもいいですか?」
「はい、じゃあクラスメイトの方から話していきますね」
その後の葵さんの話は、驚嘆に値するものだった。
人間関係だけでなく、それぞれの性格まで調べており、とてもこの短期間で調査したとは思えない情報量だったのだ。
これだけの情報があれば、かなり動きやすくなる。
「私、努君の役に立てましたか?」
「はい、期待以上です。よくこの短期間でここまで調べましたね」
「よかったです。私、足手まといにはなりたくありませんでしたから」
「そんなことを言わないでください。僕は葵さんのことをそんな風に思ったことは一度もありませんよ」
「でも、まだ私に遠慮してることがあるでしょう?」
「それは……」
確かに、僕はまだ葵さんに遠慮していることが一つある。
人殺しをさせることだ。
しかし、これは躊躇うリスクも考えての事であって――
「私、努君のためならなんだってするって言ったじゃないですか。だから、もっと頼ってください。それとも、私のこと信用できませんか?」
そんな言い方をされたら……断れない。
「……分かりました。でも一つだけ、約束をしてください」
「なんですか?」
「絶対に、無茶はしないでください」
「どこかで聞いたことのある台詞ですね」
「ええ、まさか僕が言うことになるとは思いませんでしたが」
正直、葵さんにリスクを背負わせるのは気が進まない。
進まないが……あのとき葵さんは、僕を信じて任せてくれたから。
僕も、信じて任せようと思う。
僕は作戦を改めて練り始めた。
今ある手札を使って、最終的に一番リスクが少なくなる道筋を。
葵さんも、リスクを負う道筋を。
結論としては、取り敢えずなんとかして僕を勇者として王国に認めさせられないだろうかということになった。
何をするにしても、堂々と王城内に居れる方がやりやすい。
クラスメイトも僕の顔は覚えているだろうから、それらしい事情をでっち上げればなんとかなるんじゃないかと思う。
問題は――
「王国の人にどうやって僕を勇者として認めさせましょうか、物的証拠がないので言葉で説得するしかないわけですが」
「それなら王国の騎士団長を利用するのはどうですか? 私たち勇者との距離感が近いですし、情に厚い方ですから」
「ふむ……連れてこられそうですか?」
「なんとかして連れてきてみせます」
「分かりました。では昼頃に王都の勇者像あたりで合流しましょうか。あそこなら分かりやすいでしょうし」
「了解です。ふふっ、感動の再会ってことですね?」
「そうなりますね。引き裂かれた二人の恋人は偶然感動の再会を遂げるというわけです」
明日、僕たちは演劇の幕を上げる。
舞台は王国、演じるのは、無事に恋人との再会を果たした二人の勇者。
観客は、その他の勇者と王国の皆様。
そして、スポンサーはろくでなしの神共。
この演劇の幕は、魂狩りが終わるまで下りることはない。




