第37話 力の対価
出発の準備が整うまでの間に、僕は盗賊の持ち物を物色し、剣に付いた血を拭う。
流石はAランク冒険者の剣と言うべきか、王城のときを含めあれだけ人を斬ったのにも関わらず、少し刃こぼれしている程度で済んでいる。
この剣、一体何で出来ているんだろうか。
とても普通の鋼で出来ているとは思えない。
そういえば、スキル[鑑定]を手に入れているはずなので、後でこの剣の性能を確かめてみてもいいかもしれない。
[鑑定]は物に対しても使えるらしいから。
盗賊の持ち物に関しては、特に目ぼしい物は無かった。
武器防具等は既にダンジョン内に山ほどあるようなものばかりだったし、金もあまり持っていないときている。
まぁ、特に期待していたわけでもなかったので、さっさと物色を切り上げて馬車に戻ることにした。
「あんたのおかげで助かった。みんなを代表して感謝するよ」
「いえいえ、あくまで自己防衛の一環ですから」
「まあそう言うな。俺たちとしちゃ助けてもらっただけだと格好が悪い。何か礼をさせてくれないか」
「礼、ですか」
馬車に戻ると同乗者の一人に頭を下げられて礼をすると言われた。
僕としては、この状況で求めるものはただ一つだ。
「では僕の事を口外しないようにして頂けるとありがたいです」
「それだけでいいのか?」
「ええ、僕は目立ちたくないんですよ」
「割に合わない気もするが……分かった。皆もそれで構わないな?」
力があるというのは枷になる。
それを僕は散々思い知らされてきた。
過ぎた力は恐れられるし、適度な力は利用される。
だから、僕の事を口外されると困るのだ。
力があることを知られるから。
本当に口外しないかどうかは分からないが、ひとまず約束を取り付けられてよかった。
その後は特にトラブルも無く、日が暮れてくるまで馬車は進んだ。
夜になり、他の同乗者たちは馬車から少し離れたところで火を囲っている。
そんな中、スキルをたっぷり食べたのと、節食LV4の影響で全く腹の減っていない僕は、その集団から少し離れたところで外套にくるまってさっさと眠ることにした。
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気配察知に反応。
念のためフル強化状態に移行し、すぐさま飛び起きる。
「うおっ」
「おや、あなたでしたか」
「おう、いきなり飛び起きるからびっくりしたぜ」
ランプをつけて近づいてきていたのは、昼間僕に頭を下げた同乗者だった。
「何か用ですか?」
「ああ、ちょいと二人きりで話がしたくてな。単刀直入に聞く、あんた何者だ?」
「何って、ただの冒険者ですよ」
「あんまり下手な嘘はつかない方がいいぜ。あんなに人を殺し慣れておいてただの冒険者と名乗るのは無理がある」
「何が目的ですか?」
「そんなに怖い顔すんなって。別に言いふらそうっていうんじゃねえよ。ただちょっとあんたに興味が湧いただけだ」
ふむ、そうやって誤魔化して情報を聞き出すつもりなのか。
今まではそれでなんとかなったのかもしれないけど……今回は相手が悪かったね。
「では、帝国の諜報員は興味が湧いた相手を殺すのですか?」
「っ!?」
急いで隠していたが、僕が飛び起きたとき、こいつがナイフを構えていたのを僕は見逃さなかった。
恐らくは、寝ている隙に殺すつもりだったのだろう。
そして、実はこいつに対して[鑑定]を使っていたのだが、そのときに表示された情報がこれだ。
名前:レイク
種族:人間
性別:男性
年齢:三十七
職業:諜報員
魔力属性:風
スキル:言いくるめLV2
諜報員ということが分かったので、もしやと思いハッタリをかけてみたのだが、反応を見る限り大当たりのようだ。
推測だが、力を持っているため危険な帝国の敵になり得る僕を殺そうとしたけど、失敗したから次善策として情報を聞き出そうとしたのだろう。
名前からして便利そうなスキル持ってるし。
細かい事情は知らないけど。
いつも通り物理的な手段を用いて情報を聞き出そうかとも思ったが、諜報員というのは追い詰められても平気で嘘を吐く。
それに、悲鳴をあげられたら他の人に気づかれてしまうだろう。
そこで――
「今は特別に見逃してあげます。その代わりあることに付き合ってください」
「くそっ、相手を見誤ったかっ。仕方ねえ、俺に選択肢がないのは織り込み済みだが……あることってのは何だ?」
「ダンジョン探索ですよ。今話題のあのダンジョンの」
ダンジョンマスターとしての力を活用しようと思う。




