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第36話 障害物

 王城からある程度離れたところで、僕は全身の身体強化とボディーエンチャントを解除する。

 ……思ったより疲労が溜まっている。

 流石に、徹夜後で全力を出すと堪えるものがあるようだ。

 余裕があったら、危険を承知でフル強化状態で走って帰ろうと思っていたのだが、これでは厳しい。

 

 仕方ないので、僕はここに来た時と同じように乗合馬車に乗って帰ることにした。

 出発時刻はロルムの街と同じ昼頃。

 同乗者たちと共に王都を出る。


 前回は【俺】を出して同乗者たちの会話に耳を傾けていたのだが、今は雑談程度で得られるような情報で特に欲しい物はないし、何より疲れているので睡眠をとることにした。

 他人と同席する中寝るのは危険かと思われるかもしれないが、僕自身に危害を加えようものならスキル[気配察知]で飛び起きるし、物を盗もうとしたならばリビングナイフの洗礼を受けることになるので、さしたる危険はないのだ。

 馬車の乗り心地は相変わらず最悪ではあったが、疲れと今の内に休まなければならないという使命感によって、僕は徐々に意識を手放していった。


 +++++++++


「おい! おいそこのあんた! 寝てる場合じゃねえぞ!」


 同乗者らしき男に声をかけられ、目を覚ます。

 それと同時に、金属と金属がぶつかる音が耳に入って来た。

 これは……戦闘音?


「何が起こってるんですか?」

「盗賊の襲撃だよ、ったくついてねえぜ! っておい、外は危ねえぞ!」

「大丈夫です。僕は冒険者ですから」


 座っているときは外套に隠れていて見えなかったであろう二本の黒剣を男性に見せた後、僕は馬車を飛び出した。

 【俺】に切り替えても良かったが、今は急いでいる。

 こんなところで時間を使うわけにはいかない。

 

 見たところ、護衛さん側が防戦一方になっているようだ。

 というのも護衛さんが三名しかいないのに対して、なんと十名近くの盗賊が襲撃してきている。

 追い詰められて当然だろう。

 

 目立つのは癪だが、今はなりふり構っていられない。

 そこそこ休憩出来たので、ある程度体力も回復している。

 腹は減っていないが、昼過ぎのおやつの時間としようじゃないか。


 僕はいつものフル強化状態へと移行し、護衛さんと盗賊の間に割り込んでいく。


「あ? なんだお前は」

「中の客か? 邪魔するってんなら容赦し、な――」

「よく動く口ですね。思わず真っ先に刺しちゃいましたよ」


 一瞬で距離を詰め、心臓を突き刺す。

 リビングナイフが使えなかったとしても、正直一般人よりちょっと強い程度の盗賊では、今の僕の相手にならない。

 

 そして相手にならないということは余裕があるので、続いて効率よく殺すための手を打つ。

 手と言っても、少々挑発するだけなのだが。

 

「ほら、早くかかってきてください。お仲間の仇ですよ?」

「お、お前ら、かかれ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 挑発に乗ったのか、それとも仲間を殺された危機感からかは知らないが、散らばっていた盗賊たちが次々と僕の方に向かって来る。

 狙い通り殺しに行く手間が省けた。


 向かって来る盗賊の剣を時に回避し、時にスラッシュを使って盗賊ごと吹っ飛ばしたりしつつ、隙を見て人体の弱点に斬撃を加えていく。

 王城のときとは違って皆抵抗してくるが、やる事は変わらない。

 正しい位置に切れ込みを入れて、人間を肉袋に変えるだけの簡単なお仕事だ。

 報酬は魂。

 もっとも、今回手に入ったのは本当におやつ程度の軽さの魂だったが。


「こ、降参だ、俺たちの負けだ! だから殺さないでくれえっ!」

「そこの護衛の方、盗賊は片付いたので出発の準備をするよう御者の人に言っておいてくれませんか? 僕は先を急いでいるので」

「あ、ああ。それはいいんだが……そいつはどうするんだ?」

「ん? ああこれですか。これは邪魔なので置いていきますよ」

「置いていくってどういう意――」


 僕は武器を捨てて降伏してきた、最後の盗賊の首を切り落とした。

 盗賊を見逃すわけにもいかないし、かと言って連れて行くのも面倒だからね。

 何やら護衛の人が言葉を失っているようだが、知ったことではない。

 犯罪者に情けは無用である。


 こいつらのせいで目立った上に時間もとられてしまった。

 全く、厄介な障害物だ。

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