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第35話 ローリスクハイリターン

 聴力を強化して聞き耳を立てていたので、付近に人がいないことは確認済みだが、警戒は怠らずに部屋を出る。

 そして、僕は堂々と教えてもらった鑑定スキル持ちの部屋へと向かった。

 衛兵の恰好をしているのに、コソコソとしていたらむしろ怪しいだろうから。


 目的地に着いたところで、コンコンと手で木製の扉を二回ノックする。

 ……返事はない。

 どうやら不在のようだ。


 勇者組と同じように朝食を食べに食堂にでも行っているかもしれない。

 戻ってくるのを突っ立って待っているわけにもいかないので、僕は巡回するふりをしつつ、扉の監視をすることにした。


 +++++++++


 ふむ、どうしたものか。

 しばらく監視を続けていると、扉が面した通路に人がやって来たのだが、大人数でやって来たのだ。

 一斉に来た理由は定かではないが、この辺りは居住区画なので、恐らく大半は自分の住処に帰ろうとしているだけだろう。

 

 安全策を取るなら鑑定スキル持ちの人が部屋に戻った後、再び扉を叩いて呼び出して、こっそりと殺せばいいだけなのだが……この人たち、王城で働いてるわけだし優秀なんだろうな。

 ということは、きっといい魂を持ってるんじゃないだろうか。


 そう思い立った僕は、リスクとリターンを天秤にかけ始める。


 敵方の戦力は?

 衛兵が四名ほど、その他十数名はとても戦闘慣れしているようには見えない。

 逃走ルートは?

 侵入に使ったバルコニーのところまで勇者組が住む部屋と食堂を避けて行ける。

 全力で動けば捕まる可能性は低い。

 顔を見られる可能性は?

 彼らを呼び戻せば問題ない。


 ローリスクと判断。

 僕は件の集団に向けて、自然に、堂々と歩みを進め始めた。

 集団の内、幾人かは自分の部屋に戻っていく。

 そして、鑑定スキル持ちの部屋の扉に人が手をかけようとした時、僕は城外で待機している彼らに脳内で指示を出した。


「ぐあっ!」

「な、なんなんだこいつらは!?」

「皆さん逃げてください! ここはわれわ、れ、が……」

「う、うわあぁぁぁぁ、あ……ごふっ」


 指示を出すと同時に、付近の格子窓の隙間から次々とリビングナイフが侵入してきて、集団に対して攻撃を始める。

 指示の内容は、城内への侵入と『殺し尽くせ』という命令。

 この言葉をトリガーにリビングナイフは殲滅状態へと移行する。

 この状態になったリビングナイフは、設定したターゲットの首、内臓、主要な血管等の弱点目掛けてランダムに飛来していき、ターゲットの命尽きるまで攻撃を繰り返すのだ。

 付与魔法をかけていないので、いつもより動きが鈍いようだが仕方ないだろう。


 僕もいつもの全身身体強化とボディーエンチャントの併用で、鑑定スキル持ちの人の部屋に入ろうとした人、衛兵、その他の順で殺していく。

 まともに双剣を使うのは今回が初めてだが、手数が増えて中々にいい。

 パッシブスキルと剣の切れ味が相まって、滑らかに人が斬れる。


 通路は一瞬にして惨劇の舞台と化した。

 人々が向かって来るナイフに恐怖してパニックになる中、僕は集団の中を人間離れした身体能力で流れるように移動しつつ、すれ違った人々の首を落とし、腹を切り裂き、胸に穴を開けた。

 ナイフの迎撃に必死になっている人々は気づかない。

 集団の中を縫うように移動し、舞うように黒き双剣を振るう敵対者が紛れ込んでいることに。

 最終的に残ったのは、切れ込みから赤黒い液体を垂れ流す肉袋と、僕だけだった。

 

 全滅までの所要時間は二十秒ほど。

 及第点といったところか。

 一度にこんなに殺したのは初めてかもしれない。

 そこそこ重みのある魂が、次々と自分に吸収されていくのを感じる。

 

 後は時間との勝負だ。

 血まみれの鉄鎧を脱いで、リビングナイフと一緒にちゃっかり侵入してきていた外套を着る。

 そして同じく血まみれのリビングナイフを内側に収納し、全力でバルコニーへと移動を開始した。

 外套が黒くて本当に良かった。

 血がついてても目立たないから。


 バルコニーへと到着したら、来た時と同じように時々窓枠に足を置きつつ、壁を降りていく。

 姿を見られるだろうが、フードで顔を覆っているので問題ないだろう。

 下の方で衛兵が一人僕に気づいたようだがもう遅い。

 壁を降りきった僕は、止められる間もなく城下町の人混みの中へと姿を消した。

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