幕間 リユニオン
よくよく周囲を見渡せば、私たちがこの玉座の間の入り口と玉座とを繋いでいる赤い絨毯の上にいること。
そして、何やら時代錯誤な洋風の鉄の全身鎧を着た人に囲まれていることが分かった。
まぁ、目に映る何もかもが時代錯誤なのだが。
神への願いか通じたのかとも一瞬思ったのだが、努君の姿は見当たらない。
けれど、この場所の空気はあの異様な空気と似ている。
何か手掛かりがあるかもしれない。
少しだけ、希望が出た。
「召喚魔法は成功したようだな。やけに人数が多いようだが」
金色の玉座らしきものに腰掛け、これまた金色の冠をかぶっている偉そうな白髪のおじさん……いや、私の観察によると実際偉いおじさんが、落ち着いた様子でそう言った。
「はい。今までも複数人勇者が召喚されることはありましたが、ここまでの規模は初ですぞ。想定外の事態ではありますが、これも神の思し召しでしょうな」
玉座の左側に立っている、華美な白い神官風の服を着た老人はそう言った。
「ふむ。帝国もどうやってかは知らぬが、複数人勇者を召喚していると聞く。それに対抗するため、この規模で神が勇者を召喚したのかもしれぬな」
混乱している私たちそっちのけで、何やら不可解な会話をおじさんと老人がしている。
会話の内容にはついていけないが、これだけは分かる。
こいつらは警戒しつつも、私たちを都合のいい道具として見ている節があるのだ。
私たちを見る目からそれがよく分かる。
多分、私だけしか気づかないだろうけれど。
それから、会話が一区切りついたところで、ようやくおじさんの方が私たちに話しかけてきた。
「私はグランツェル王国の国王、レイド・カル・ヴァニタスだ。まずは今、おぬしらに何があったのかを説明しよう。エルヴィス、頼んだぞ」
「はっ、畏まりました」
それから、エルヴィスというらしい老人によって、大まかな事情が説明された。
まず、私たちを召喚したこのグランツェル王国は、隣国のガーランド帝国という国と敵対関係にあり、戦争を仕掛けられようとしているということ。
そして、王国は帝国によって仕掛けられる戦争を、代々アルスリア神なる王国が信仰する神様の力を借りて異世界より勇者を召喚することによって凌いできており……今回、勇者として召喚されたのが私たちということらしい。
そういえば、この異世界とやらに来てからなんだか体が軽い。
勇者としての力でも宿ったのだろうか。
「待ってください。あなた方は僕たちが戦争に協力するのが当然のように言っていますが、こんなのはただの誘拐ですよ! 元の世界に帰らせてください!」
説明が終わり、皆が頭の中を整理している中、クラスのリーダー的存在である神岡裕輝が猛然と抗議を始めた。
天才肌で、運動神経抜群、顔も性格もいい。
というのがこの男の一般的な評価だ。
私から見ると、神岡が本当はそんな完璧な人間じゃないことが分かるんだけれど。
それはさておき、神岡の発言について思案する。
確かに、私はこの世界で彼を探すという目的があるが、他の皆にこの世界にいる意味などない。
ましてや戦争に協力する理由なぞ皆無だ。
抗議するのも当然だろう。
「その言い分はごもっともですな。しかしながら、我々の意思で皆様を元の世界に帰還させることはできないのですよ」
「何故ですか?」
「先ほども言ったように、我々はアルスリア様の力を借りて皆様を召喚しました。それ故、元の世界へ帰還させるのにもアルスリア様の力を借りなければならないのですが……召喚した目的が果たされない限り、アルスリア様は再び力を貸してくださらないのです」
「つまり、戦争に協力して勝利しない限り僕たちは帰れないと?」
「飲み込みが早くて助かります」
なんとも王国びいきな神様だ。
エルヴィスと神岡のやりとりを受けて、顔を歪ませる者、諦めの表情を浮かべる者、決意に満ちた顔をする者、などなど、皆多種多様な反応を見せたが、状況は変わらない。
私たちに、戦争に協力する以外の道は残されていなかった。
「これでおおよその事情は理解出来ただろう。ウォルス、後は任せたぞ」
「はっ」
玉座の右側に居た、体格のいい鉄鎧を着た男が私たちの傍まで進み出てくる。
「俺はこのグランツェル王国の騎士団長をしている、ウォルス・ハーヴェイだ。今後、君たちの訓練をすることになっている。まだ戸惑いも多いだろうが、ひとまず俺の指示に従って欲しい。いずれ戦友になる仲だ。気軽に接してくれて構わないぞ。それじゃあ、城の中を案内するからついてきてくれ」
その後はウォルス団長、先生、生徒の順で並んで城の中を進んでいった。
訓練場、食堂、書庫等の施設と、私たちが泊る部屋の案内を受ける。
他にも食事や衣服などの、生活関連の説明も受けた。
無茶な要求でもない限り、割と融通は利くようだ。
このあたりは勇者待遇といったところか。
「今日は疲れただろう。皆案内された自分の部屋に戻ってしっかり休むといい」
案内が終わり、食堂で十分な食事を摂った私たちはウォルス団長にそう言われ、自分の部屋に戻る。
「努君が見つかりますように……」
私はベッドの上で一人呟き、意識を手放した。
+++++++++
私たちが召喚されてから数日がたった現在。
私たちは戦争に向けての訓練や、座学をして日々を過ごしている。
結局、彼どころか彼の手がかりすら見つからない。
あの異様な空気は私の勘違いだったのだろうか。
こんな世界に彼はいるのだろうか。
『いるはずだ』
自分に思い込ませる。
『いるはずです』
思い込ませなければならない。
『いるはずなん……です』
じゃないと、見つける前に私が壊れてしまうから。
朝、自分の部屋を出る。
部屋の前の通路にはここ数日と同じようにクラスメイトがいて、衛兵がいて……衛兵?
背を向けて歩くその衛兵の動きの癖は、私がとてもよく知っているもので――
思わず名前を呼びそうになるのを堪える。
彼に迷惑はかけたくなかったから。
「先行ってて、ちょっと用事が出来たから」
「ん? 分かった。朝食の時間に遅れないようにね~」
クラスメイトに別れを告げ、角を曲がったその衛兵の後を追う。
「努……君?」
衛兵が動きを止める。
そして振り返って言葉を発した。
「やっぱり君の目は誤魔化せませんね」
困り笑いの表情を浮かべた衛兵は、ずっと探し続けた彼だった。




