幕間 一対の異常者
彼の身体が私から離れていく。
改めて見る彼の姿は、一見何の変哲もない男子高校生に見えた。
でも、私は知っている。
彼が私以上に辛い経験をしたであろうことを。
そして、とても素敵な目の輝きを持っていることを。
あの後、私が彼の話を聞いて少し衝撃を受けている間に、彼はさっさと帰って行ってしまった。
いじめの解決ってそんな簡単にできちゃうの?
私と同じ生まれつきの能力って何?
頭のつくりが違うってどういうこと?
などなど、様々な疑問が頭の中に浮かんでいたが、話すことすらできなかった。
しかし、私たちの関係は始まったばかりだ。
ちょっとずつ距離を縮めて、もっと彼の事を知りたいと思う。
こんなに好きな人が出来たのなんて、これが初めてだから。
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その後の彼の手際は見事だった。
私の代わりに彼がいじめられ始めたときは心配したし、自責したけれど……一回話をして安心した。
それでも、わざといじめられて証拠を集めるなんて危ないことはできればしてほしくなかったけれど、私のためだと分かっていたので、強くは言えなかった。
結果としていじめっ子はいなくなり、本当にいじめは解決した。
「ねえ篠宮君」
「なんですか? 五十嵐さん」
すっかり一緒に帰ることが習慣になった帰路で私は彼に話しかけた。
いじめを解決してくれたお礼と……もう一ステップ彼を知るために。
「その、改めてお礼が言いたくて。私のためにあそこまでしてくれてありがとう」
「僕は君に恩を返しただけですよ。……君は、自分のためにあんなことまでした僕を恐れませんか? ……いや、なんでもないです。忘れてください」
「恐れませんよ、孤独にさせないって言ったじゃないですか」
「っ!」
「だから、あなたのことをもっと教えて欲しいんです。私のことも教えますから」
「気持ちのいい話じゃないですよ」
「構わないです」
「初めてですね。自分の事を話すなんていうのは」
それから彼は自分について教えてくれた。
生まれつき異常に物覚えが早くて、頭の回転が早かったこと。
両親から気味悪がられたこと。
そして、新たな人格を作った事とそれによる孤独。
その後、私も自分について話したけれど、彼に比べたらなんてことのない話だ。
なんてことはないけれど、重要なことが一つある。
それは、異常だという共通点。
「私たち、普通にはなれませんね」
「ええ、忌まわしいものです。結局のところ、度が過ぎた能力はこの社会では枷になってしまう」
「篠宮君は私のことどう思ってますか?」
「どう、とは?」
「その……一人の女性としてどう思ってるかってことです」
「そう、ですね。正直、僕は温かみのある感情の区別がつきません。あまりに長い期間、この種の感情を感じていませんでしたから。そんな悲しそうな顔をしないでください。徐々に学んでいけばいいだけです。それに、質問には答えられます。僕は間違いなく、あなたのことが女性として好きですよ。あの屋上での出来事から、ずっと。友愛や同情で僕は動きませんから。五十嵐さんはどうですか?」
「ひゃ、ひゃいっ」
顔が真っ赤になっていくのを感じる。
そんなに堂々と宣言されたら、応えるしかないじゃないですか。
「わっ私も……大好き、です」
言い切ると、彼は安堵の表情を浮かべた。
私の表情も自然と緩む。
「同じ気持ちでよかったです。きっとこんな気持ちは他の人には持てないでしょうから」
「篠宮君は堂々としすぎなんです! 付き合うってことでいいんですよね?」
「あなたさえよければ」
「じゃあ今日から私たちは恋人同士です! いっぱい愛しますから、自分を大切にしてくださいね?」
「堂々としてるのはお互い様ですね」
「っ! むぅぅぅ」
自分の発言を思い返して、私はまた顔を赤くした。
こんなに気を許して話をするのはいつぶりだろうか。
多分、彼も同じことを考えていると思う。
私たちは傷ついた二人の異常者。
互いに傷を舐め合い、愛し合い、理解し合える唯一無二の相手。
どうか、この関係が壊れることがありませんように。
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