第31話 王城にて
王城付近に移動し、周りに人がいないことを確認した後に、僕は外套と皮鎧を脱ぎ鉄鎧を着て、ちょっとした変装を済ませる。
武装の方は、衛兵もみんな割とバラバラだったので今まで通りで大丈夫だと思う。
分かってはいたが、皮鎧と比べると重くて動きにくい。
不意打ちを多用する僕には、やはり動きやすい皮鎧の方が合っている。
今回はどうにもならないが。
リビングナイフは、ベルトにさしきれない分は置いていくしかない。
外套、皮鎧、背嚢も同様だ。
しかしどこに置いておこうか。
宿でもとって預けておけばよかったと後悔しつつ、どうするか悩んでいると、いい考えを思いついた。
「リビングナイフ君、君たちに浮ける高度限界ってありますか?」
そう聞いたら、彼らは持ち手の方を僕に向けて、横に振り始めた。
さながら首を横に振っているようである。
どうやら僕の質問に対し「いいえ」と答えているようだ。
「それでは、これを持って浮けますか?」
僕が外套、皮鎧、背嚢を指さしながらそう言うと、彼らは外套の下に潜り込んで、それを自身と一緒に浮かせ始めたが、皮鎧と背嚢には特に何もしなかった。
どうやら、皮鎧と背嚢は無理らしい。
まぁ仕方ないかと諦めた僕は、お金をポーチに移し、ランプを回収した後、皮鎧と背嚢は道端に放棄することにした。
替えは自分のダンジョンに幾らかあるし、損失はそこまで痛くない。
お金に関してはポーチに入れる関係上、スライムまみれになるのはいただけないが、実質的な損失はないためよしとしよう。
ちなみに、夜に城内を巡回する衛兵のふりをするために、ランプだけは回収しておいた。
ベルトにささりきらないリビングナイフと外套には、王城の遥か上空の方に待機してもらうことにする。
日が出てきたら、空に黒い点が浮かんでいると認識されてしまうかもしれないが、空を飛べる人間でもいない限りは盗まれることはないだろう。
身の回りの整理も終わったところで、いよいよ王城への侵入を始めようと思う。
気合を入れていこう。
幸いなことに、バルコニーは正面入り口も裏口もない面にあるので、特に衛兵は配置されていない。
夜なので、周りから見られることもないはずだ。
まず、僕は全身身体強化とボディーエンチャントを発動。
手持ちのリビングナイフにも、付与魔法を行使していく。
次にジャンプして、僕は手近な一階の王城の窓枠に足をかける。
このとき、リビングナイフには様々なサポートをしてもらった。
具体的には、飛び出しいるかかとを支えてもらったり、バランスを崩さないように背中を支えてもらったりなどだ。
その後も、僕は王城の壁のちょっとした凹凸や、リビングナイフのサポートを利用することによって壁を登り続け、無事バルコニーに到達。
ひとまず侵入には成功した。
後はランプを点けて衛兵のふりをしつつ、可能な限り内部構造の確認をする。
そして、頭の中の立体図をより正確にしていく。
途中衛兵に遭遇することもあったが、特に違和感はもたれなかったようだ。
特に確認とかもなかったし、意外と杜撰な警備なのかもしれない。
その後も、僕は朝になるまで王城を巡回し続ける。
朝になったところで、僕は起きてくる勇者を観察するべく、彼らが泊っている部屋があるという通路にやってきていた。
何人かはもう出てきているようだ。
僕は視力を強化し、その容姿を目に焼きつけようとしたのだが――
思わず体を硬直させる。
焼き付けるまでもない。
そこにいた日本人……勇者たちは、【俺】のクラスメイトたちだったのだ。
「今すぐここを離れろ! "篠宮努"がいるとバレたら面倒なことになる」
と、僕の理性が警鐘を鳴らす。
だが、僕は彼女の姿を探した。
探してしまった。
そして、見つけてしまった。
……僕は視線を外すと、通路を引き返した。
振り返り際に感じた視線が、気のせいであることを願いながら。




