第30話 侵入準備
建物の構造なんて、普通は口頭だけで伝わるようなものじゃない。
できるだけ具体的な表現を引き出したが、それでも一回聞くだけでは王城の構造や衛兵の配置を想像するのは至難の業だ。
だから、僕は何回も話を聞いて、大量の情報を集めた。
そうして集めた情報を使って、足りない部分を埋め合い、精度を高めて整理し、頭の中に立体図を作り上げていく。
……大分出来上がってきた。
通路、階段などの移動経路は、完全に把握したと言っていい。
他にも、内部にある大勢が利用するであろう施設。
訓練場、食堂、書庫なども大体把握した。
流石に細かい部屋の中の構造は分からないところが多いが、その部屋の用途自体は判明しているので、特に問題はないだろう。
ちなみに、例のバルコニーは普通に通路へと繋がっていた。
一方で、衛兵の配置に関する情報については正直厳しい。
衛兵は固定の場所にいる場合もあるが、大多数は巡回で通路を動き回っているからだ。
とてもじゃないが、話を聞いただけで衛兵の巡回パターンを把握するのは無理である。
となると、衛兵に見られても問題がないようにするしかない。
日が暮れてきている中、僕はちょっとした"釣り"をすることにした。
城下町は治安がいい。
ロルムの街にあったようなスラムもない。
これには、国の中心部ということで、経済が潤っているからというのと、王のお膝元ということで兵士がパトロールに精を出しているからという理由がある。
そして、そのパトロールは夜間も行われるようなのだ。
彼らが着ている鉄鎧は支給品らしいのだが……この鉄鎧は、王城の衛兵が着ているものと同じデザインをしている。
この鎧があれば、衛兵全員の顔を覚えているような人でもいない限りは王城内を動けるはずだ。
今回の兵士を対象とした"釣り"の手順は簡単。
まずは、全身身体強化とボディーエンチャントを使った後、出来るだけ高い建物に登って城下町を見下ろし、街をパトロールしている兵士を探す。
兵士たちはランプをつけていたので、探すのはそう難しくなかった。
どうやら四人でグループを作って、パトロールをしているようだ。
ここで次に、見つけた兵士たちの進行方向に餌をセットする。
餌は、先ほどまで話を聞かせてもらっていた、王城に出入りしていた人たちの死体だ。
丸々運ぶのは大変なので、切り落とした首だけを使わせてもらおう。
彼らがこの生首を、夜のパトロール中に見つけたらどうなるだろうか。
きっと驚くに違いない。
恐怖するに違いない。
そして、思わず食い入るようにその生首を見てしまうに違いない……周りが見えなくなるぐらいに。
最後に、餌に食いついた魚を釣り上げたら釣りは終わりだ。
周りの警戒を怠っていない兵士さんも一人いたが、完全に注意力を失っていた他三人を奇襲でさっさと始末して、一騎打ちで最後の一人を殺せば問題はなかった。
こうして、僕は無事に鉄鎧を手に入れた。
これで、王城への侵入に必要なピースを全て手に入れたわけだが、ここからが一番の難関だ。
侵入がバレても逃げ切れるとは思うが、城下町で発見される死体と相まって警戒度は跳ね上がるだろう。
チャンスは一度だ。
失敗は許されない。
そう自分に言い聞かせ、昼のときとは違う心持ちで、僕は王城へと向かった。




