第3話 魔法(物理)
もう侵入者が来たのかと、慌てて入り口の様子を見ようとすると、視界が切り替わり入り口の様子を映し出した。
どうやら、ダンジョン内の様子を視界ごと変えて見る事が出来るらしい。
早速その機能を使って確認してみると、入り口に現れた影の正体は兎だった……やけに目が血走っていて歯が鋭いが。
『あれは兎の魔物ですね。丁度いいのであれで魔法の訓練をしてみましょうか。まずは、身体強化の使い方を教えます』
どうやらこの世界には、剣と魔法の世界ではお馴染みの魔物もしっかり存在するようだ。
声を聞きつつ身を隠すため、視界を戻して部屋の隅に身体を寄せる。
『まずは自分の中にある魔力を確認してみましょう。目を閉じて魔力の流れを感じてみてください。血液のように全身を巡っている事をイメージすると感じやすいかもしれません』
言われた通り目を閉じて、血液のように流れるものを探してみる。
すると、確かに何かが流れているのが確認できた。
これがいわゆる魔力なのだろう。
『感じとる事が出来たら、強化したい体の部位の魔力を活性化させてみてください。筋肉を力ませるように、魔力を力ませるのです』
最初は体の魔力という新しい部位を動かすのに手間取っていたが、少しずつ魔力を操る事が出来るようになってきた。
そうしたら、手始めに足の魔力を活性化させてみる。
試しに思いっきりジャンプしてみると、部屋の天井に余裕で手が届いた。
これはすごい、シンプルだが中々使いやすいんじゃなかろうか。
ちょっとはずれだと思ってごめんよ、無属性君。
『身体強化が使えるようになったらあの魔物を倒してみましょうか』
そこそこ時間が経っているのでもういなくなっているのではと思ったのだが、兎の魔物はまだ入り口辺りでうろちょろしていた。
好奇心旺盛なのだろうか。
さっきとは違い、全身を身体強化して兎の魔物に襲い掛かろうとしたところで、俺はあることに気づく。
そういえば、武器がない。
え、素手?
素手で殺れっていうの!?
『素手でです』
ちくしょう、神様に慈悲がなければ神様によって生み出された者にも慈悲はないようである。
俺だと素手で兎の魔物を倒すのに躊躇いを覚えそうだったので……スイッチを切り替えた。
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僕は強化された足で部屋から飛び出して、あっという間に兎の魔物に近寄った。
そして、逃げようとするその少し可愛げのある生き物の頭を、容赦なく殴り飛ばす。
以前なら避けられていただろうが、身体強化の影響で動体視力や思考速度も早くなっているようだ。
兎の魔物は死んでこそいないが脳震盪を起こしかけていてふらふらだったので、もう一撃頭に加えて完全に殺害する。
『何をしたんですか? 思考パターンがまるで違う』
「さぁ?」
やっぱりばれるかと内心舌打ちしつつも、とりあえず表面上はとぼけておく。
『さっきのあなたは神にも私にも慈悲がないと考えていましたが、今のあなたも大概ですよ?』
「仕方ないでしょう? 容赦すればこちらがやられる」
僕は身体強化を解除してそう答える。
ばれているなら僕のままでもいいかなと一瞬考えたが、俺の方がいいだろうと思いなおした。
何せ今は、この声に常に考えを読まれている状態なのだから。
そう考えて、僕はスイッチを切り替えた。
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『戻りましたか。しかし、本当に飲み込みが早いですね。調査では魔法を使いこなせるようになるまで、一般人は数ヶ月はかかるとの事でしたが』
ん? 調査って一体何の事なんだ?
俺は自身の能力の高さを再認識しつつ、調査とやらの事を聞く。
『地球世界の神が自分の世界の人間が他の世界に召喚されている事を知って、この世界の事を調査した事です。その時に得た情報が私に組み込まれています』
なるほど、通りで地球にはない魔法の使い方なんて知っている訳だ。
あと、今までスルーしてきたが地球世界の神って言ってるって事は、この世界には別の神様がいるんだろうなぁ。
俺たちがやってる事がバレたら相当面倒な事になりそうである。
若干憂鬱になりながらも、俺は奥の部屋へと戻っていった。