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第24話 決着

「くそっどうなってるんだ!?」


 分からない事が多すぎる。

 目の前で殺されていたアンリ以外の仲間の安否。

 俺の周りに展開してくるナイフの群れ。

 そして、目の前の少年の正体。


「よそ見する暇があるんですか?」


 ナイフを観察しながら思考の沼にはまっていた俺に、ナイフの放出を終えたらしい少年が、まだ血のしたたっている剣で切りかかってくる。

 考え事をしている場合じゃない。

 俺はさっさと思考を切り替えて、少年の剣を危なげもなく剣で受け止める。

 

 確かに分からない事はたくさんあるが、はっきりしている事もある。

 それは、目の前のこいつが油断ならない敵だということだ。

 今は敵を倒す事に集中しなければならない。


 俺は、少年の剣を受け止めていない側の剣で反撃を試みた。

 が、背後に気配を感じ、体を捻ったためその動作は中断される。

 そして、ついさっきまで俺の体があった場所をナイフが通り過ぎて行った。

 

 ナイフをかわした後に反撃を……と考えていたとき、俺は自分の過ちに気づかされた。

 右、真上、左斜め後ろ、左斜め前から迫る気配。

 そう、迫ってくるナイフは一本程度じゃない。

 俺は既に、あの意味の分からないナイフたちに包囲されていたじゃないか。

 

 あらゆる方向から迫ってくるナイフをかわし、弾き、少年の剣を防がなければならない俺に、反撃の余地などない。

 それどころか、今のスキルと身体強化で能力を限界まで引き上げている状態でも完全に攻撃を防ぐことができず、ナイフによる浅い切り傷は増えていく。

 そんな風に、すっかり防戦一方になっている中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「エンチャントアロー、パワーショット!」


 瞬間、風属性を纏った力強い矢が、少年に飛んでいく。

 ザックの矢だ。

 少年はそれをバックステップでかわす。

 そのおかげで、少年が埋めていた正面側の包囲に穴が開いた。

 

 このチャンスを逃すまいと、俺は少年の追撃という形で正面にダッシュして包囲を抜け出し、そのまま切りかかる。

 例の如く俺の剣を受け止めた少年の顔が、炎によって照らされる。

 照らされている顔の口角が上がっていることに気づいた時には、もう遅かった。

 少年の外套を突き破り、ナイフが飛び出てくる。


「全部出したわけじゃなかったのか!」


 当然避けようとした。

 が、左右からは絶妙なタイミングでトラップの鎌が迫ってきており、横に避ければ自ら刺さりに行くことになってしまう。

 後ろからは、さっきまで俺を包囲していたナイフが迫ってきていて……結局のところ、俺は包囲を抜けられてなんていなかったんだ。

 ただ、場所が変わって、チェックメイトをかけられただけ。


「ごふっ」

 

 回避を封じられた俺の胴体に、複数のナイフが突き立てられる。

 俺は血を吐き出し、自身から急激に力が抜けていくのを感じた。

 

「パワーショッ――う、動けなっ」


 声のした方を見ると、スキルを発動させようとしたザックが、影に絡みつかれ動けなくなっていた。

 そして、動けなくなっているところに近づいた少年は、その首を何のためらいもなく切り落とす。。


「本当に、人間、かよ」

「人間ですよ、正真正銘ね」


 失血で遠のく意識の中、呟いた言葉に少年は普通に答えた。

 意外な事に、会話に応じてくれるらしい。


「何故……こんなことをする? 人間なら、何故同じ人間を、躊躇いもなく、殺せる? 普通、躊躇うだろう」


 途切れ途切れにながらも質問すると、少年は少し考えた後口を開き、淡々と質問に答えた。


「何故こんなことをするかと問われたら、仕事だからだとしか言えません。別に好きでこんなことをやっているわけではないんですよ」

「仕事なら、躊躇わない、のか?」

「それとこれとは別です。普通なら、同じ人間を殺す事を躊躇うのかもしれません。でも僕には、その気持ちが分からない。必ずしも味方ではない、種族だけが同じの生命体に、何故無条件に慈悲をかけなければならないのか。自分にとって利になるなら、殺すのを躊躇う必要なんてないでしょう?」

「普通じゃ、ない、な」

「自分でもそう思いますよ」


 この少年は、人に関する価値観が大幅にずれている。

 話を聞く限り、こいつは人間を一生命体としか見ていない。

 自分にとって利になるから、生命体を殺す。

 つまり、人殺しをただの狩りとしか認識していない。


 ……なんだ、種族は人間だが、俺たちが相手にしていたのは知性のある魔物同然じゃないか。

 畏怖の視線を少年に向けると、少年は剣を振りかぶってから自嘲気味に言った。


「昔はそんな視線をよく向けられたものです」


 そして、振りかぶられた剣は、俺の喉へと振り下ろされた。

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