第22話 一階層目
微妙に下り坂になっている通路を、俺たちは慎重に進んで行く。
ギルドの情報が正しければ、一階層目に魔物は存在せず、トラップが大量にあるだけだという話だ。
実際、その話は正しかったのだが、情報にない事も多くあった。
「むぅ……これは本当に、ダンジョンのトラップなのか?」
リーダーは飛んできた矢を剣ではたき落としながら、そんな独り言を口にする。
俺がそれはどういう意味かと尋ねると、リーダーはこう返事をした。
「皆分かってるとは思うが、このダンジョンのトラップは普通じゃない。恐ろしく正確なタイミングで発動して、俺たちを殺そうとしてくる」
「それと、さっきの言葉がどう関係してくるんだ?」
「俺は、このダンジョンのトラップが人為的なものに思えるんだ。他のダンジョンのように適当に配置されたものとは違い、侵入者を妨害する意思をはっきりと感じる」
「まさか、トラップは壁の中に埋まってたんですよ? ダンジョンの壁は破壊不可能なのに設置できるわけないじゃないですか」
ザックがリーダーの話を即座に否定する。
基本的にダンジョンの壁は不可能だ。
そして、ダンジョンのトラップは基本的に壁、床、天井に仕込まれている。
つまり、ダンジョンのトラップを人間が設置するのは、常識的に考えて不可能なのだ。
「……まぁ、それもそうだな」
リーダーもそんなことはあり得ないと思いなおしたのか、少し考える素振りを見せた後、引き下がった。
俺としては、リーダーが提示した可能性が否定されるのを願いたいところだ。
職業柄割り切ってはいるけど、人間と殺し合いをするのは嫌だからね。
その後もマップを頼りにトラップだらけの通路を進み続け、次の階層への階段があると印されている場所へ到着したのだが――
「何も、ないわね」
「ああ。まさかこのマップ、正しくないのか?」
俺は慌てて何度もマップを見返してみたが、見間違いというわけではなさそうだった。
「落ち着いて状況を整理してみろ。このダンジョンからの生還者は一人しかいなかったわけだろ? それなら間違ったマップが販売され続けていてもおかしくない。マップが間違っていたと報告する人がいないわけだからな」
「確かに……でも、それならなんでここまでのマップは合ってるんですかね?」
完全に偽物だというのなら、ルートもでたらめでなければおかしい。
まさかたまたま合っていましたなんてことはないだろう。
何故こんな中途半端なことになっているのか。
「まさか、他の冒険者を騙すために?」
「恐らくは。ギルドもギルドから情報を受け取った俺たちも、既にダンジョンの第一の罠にかかっていたんだよ」
「じゃあ唯一の生還者っていう冒険者は」
「ダンジョン側の手の者だろう。人間か魔物かはともかくな」
頭が痛くなる話だ。
まさかダンジョンに、ダンジョン外で騙されていたとは。
他のメンバーも顔をしかめている。
しかし、俺たちがここで立ち止まるわけにはいかない。
Aランク冒険者率いるパーティーが撤退したとあれば、いよいよこのダンジョンを攻略をしようという者はいなくなるだろう。
そうなってしまえば街の人の不安は消えないままだ。
そんな事は、あってはならない。
その後は、従来通りマッピングをしながらひたすら迷宮を探索することになったのだが、その道のりは中々に険しかった。
いつどこで発動するか分からないトラップを常に警戒しながらの探索は、俺たちの体力と集中力を確実に奪う。
回復のために休憩を取ろうとすると、ガコンッという音がすると共に、斜面の上の方から巨大な鉄球が転がってきて、強制的に移動を余儀なくされた。
本当に厄介なダンジョンだ。
幸いだったのは、壁に擬態していた魔物をザックがすぐに見破ってくれたことだろうか。
彼は魔力感知のスキルを持っているため、普通の壁と魔力を持っている魔物が擬態している壁を見分けることができたらしい。
おかげでまた騙されずに済んだ。
そうしてようやく二階層目へと続く階段を見つけた頃には、俺たちは相当消耗していた。
リーダーだけは、まるで疲れた素振りを見せなかったが。
階段前ぐらいは休憩できないかと悪あがきをしてみたのだが、結局鉄球に追いかけられるがままに、俺たちは二階層目へ駆け込むことになるのだった。




