第19話 衝撃
「た、助けてください!」
ここまで走ってきたのか、息を切らしながら見覚えのある少年が、血まみれで勢いよく冒険者ギルドに入ってきた。
そして、入ってきた直後にあんな事を大声で言うもんだから当然ギルド内は騒然とした。
私のようなギルド運営側としてはいい迷惑だが、記憶が正しければ彼はまだ薬草採取しかこなしたことのないFランク冒険者だ。
何が起こったのかは知らないが、事によってはパニックになってしまうのも仕方ないかもしれない。
ともかく、こういった場を鎮めるのも受付嬢の仕事なので、私はさっさと職務に移ることにした。
「皆さん落ち着いてください! ガルムさん……でしたか、一旦何があったんですか?」
私はカウンター業務を一時中断し、手を叩いて呼びかけて場をそこそこ鎮めた後、彼、恐らくガルムという名の冒険者に何があったのか聞きだそうとした。
「ダンジョンで、殺されたんです」
「誰が殺されたのですか?」
「一緒に探索していた仲間です。名前はリック、ミルファ、ゲイル、マリーだと言っていました」
「「!?」」
殺されたという仲間の名前に私のみならず、周りで聞き耳を立てていた冒険者も衝撃を受ける。
彼らは別段高ランクのパーティーというわけではなかったが、希少な神官の冒険者もおり、決して弱いわけではなかった。
そんな彼らが命を落とすようなダンジョンは、この街の近くにはなかったはずだが――
「ダンジョンとはどこのダンジョンですか?」
「俺の発見したギルドに情報のないダンジョンです」
「っ!」
今度は周りに気を遣ってか、項垂れていたからか小声だったため、周りには聞こえなかったようだが、聞こえた私はさらなる衝撃を受けた。
これは只事じゃない。
そう判断した私は、場所を個室に移して詳細な話を聞くことにした。
彼から聞いた話は中々衝撃的で、尚且つ胡散臭い話だった。
正直なところ、目の前でがっくりと項垂れている彼に、あの四人がそう簡単に協力するとは思えなかったし、魔物が出てこないダンジョンなんてもっと信じられない。
何より彼らがトラップで殺されて、彼だけが逃げ帰ってこれたというのが信じられない。
が、「俺のせいで……リーダーが……皆が……ううぅっ」と、責任感に暮れているらしい人を問いただすのも気が引ける。
どうやら「自分が協力を持ち掛けなければ」と考えているらしい。
その気持ちは分からないこともないのでなんとも言えないが、すごくドライな事を言うと早く立ち直ってほしいところである。
幸いなのは、彼がマッピング担当で、ダンジョンのマップが不完全ながらも出来ていたことだろうか。
私から上司、もといギルドマスターに今回の件を報告したところ、一回彼にダンジョンの場所を案内してもらって、もし本当にダンジョンがあったなら、ギルドから正式に依頼として、未知のダンジョンの攻略を貼り出すということになった。
彼によると街から小一時間程度だというので、他の冒険者と共にさっさと未知のダンジョンの真偽を確認をしに行ってもらったのだが、どうやら本当にあったらしい。
街の近くののどかな草原に、ダンジョンができてしまっていたとは。
結局、明日から未知のダンジョンの攻略依頼を貼り出す事になった。
ちなみにマップは別売りである。
ダンジョンの情報提供をした彼に情報料を支払っているように、私たちも冒険者から情報料を頂いているというわけだ。
依頼を貼り出した当日、彼が早速その依頼を受けに来た。
さっさと立ち直って欲しいとは思っていたが、本当にさっさと立ち直ったようだ。
しかし昨日の話を聞く限り、自身の実力で攻略するのは難しいと彼はよく分かっていたはずなのだが。
「本当に一人で行くんですか? 攻略は難しいんじゃないんですか?」
「それは分かっているんですが……諦めきれないので」
まぁ、私から強く止めるようなことはしない。
冒険者は自己責任が基本の仕事だ。
もし彼の話が本当なら、彼は恐らく攻略に失敗して死ぬだろう。
でも不思議なことに、私は彼が死ぬ光景を中々想像することができなかった。




