第177話 帝国中枢にて
ダンジョンを制圧して、目を覚ました僕は立ち上がり、辺りを見る。
それで、非常事態が発生していないのを確認してから、僕は葵さんに声をかけた。
「現在の状況はどうです?」
「特に異常はないです。ただ、努君が入り口に出した岩を叩く音がちょくちょく聞こえてきますね。衛兵が集まってきているんだと思います」
「それなら、岩をどうにかされる前に急いでダンジョンを改造しますか。念のため、レギナとレークスも呼んでおきましょう」
そうして、僕はテレポートゲートを設置してレギナとレークスを呼び寄せてから、ダンジョンの改造を開始した。
何はともあれ、階層が一層しかないのは心もとないので、まずは階層数を三階層に拡張する。
そして、一階層目を除いたダンジョン全体を迷路に改造した。
迷路の外側の壁には、蜘蛛たち専用の小さな通路を複数個開けておく。
あとはいつものように、落とし穴やギロチンなどの罠を大量に設置して、最低限の防衛準備は終了だ。
どうせこのダンジョンには、これから大量の魔物を連れてくるので必ずしも必要な準備ではないのだが、ソウルポイントに余裕があるため念には念を入れる。
一階層目に関しては、階層を目いっぱいに使った大広間を一つ設置した。
ここはこれからの帝都制圧の際に、魔物たちを集合させる場所にする予定だ。
ひとまず、ダンジョンの改造はこんなところだろう。
消費したソウルポイントは4150ポイントで、残ったソウルポイントは318410ポイントだ。
それから、僕は管理室に葵さんと上位魔物たちを集めて話を始めた。
「さて、これで僕たちは帝国の中枢に、拠点を確保する事に成功しました。この後は当初の予定通り、帝都の制圧を行うつもりですが‥‥‥その前に、帝都制圧の目的を確認しておきましょう」
「あれ? たくさん人を殺すためじゃないんですか?」
「そんな事は一言も言っていません」
レギナの言葉にそう反応しつつ、僕は話を続ける。
「僕たちの最重要目標は、帝国の勇者たちの情報確保です。つまり実のところ、帝都の制圧は絶対に必要な事ではありません。ですが、戦力に余裕があるため帝都の制圧を行います」
この言葉に、表情豊かなレギナはホッとした表情を浮かべた。
大方、帝都制圧が中止になって人間が食べられなくなるのを恐れたのだろうが、それにしても分かりやすい奴である。
「ダンジョンの位置や優先順位を考慮して、制圧は城塞から開始する予定です。具体的な手順としては、城塞の出入口の封鎖、衛兵等の戦力の殲滅、情報を持っていそうな貴族及び皇族の確保の順で行います」
そう作戦の概要を話してから、僕は続けて具体的な役割分担の話をする。
そして最後に、市街地の制圧についての話を始めた。
「城塞の制圧に成功した後行う市街地の制圧については、基本的に魔物のあなた達だけでやってもらうつもりです。僕と葵さんはその間、城塞で引き続き情報収集をしていますから。ただ、僕から適宜指示は出すので、そこは安心してください。基本方針としては、壁に囲まれた上流階級のための区画を制圧してから、中流階級以下の人が暮らしている区画を制圧してもらう予定です」
市街地の制圧については、必ずしも必要な事ではないため、そこまで凝った作戦は用意していない。
部下の魔物たちに、地獄絵図を描いてもらうだけだ。
ソウルポイントの足しにはなるだろう。
「それで、帝都制圧はいつから始めるんです?」
「明日の夕方から始めます。大した障害はありませんが、これまで通り油断せずに行きましょう」
葵さんの質問に、僕はそう答えた。
あっけないが、帝国との戦いももう間もなく幕引きだ。




