第175話 城塞
あの後も、僕たちは貴族の屋敷に数回侵入し、同じ手順で情報を集めた。
その結果として、城塞の内部構造をおおよそ把握する事に成功する。
帝国の城塞は王国の王城と比べて、華やかさや住みやすさよりは、防衛機能を優先した造りをしているようだ。
そのため、緊急時に利用する隠し通路や、地下牢なんていう施設も存在している。
ともかく、地下牢までの道のりは判明したわけで、城塞に侵入する準備はもう出来たと言っていいだろう。
「それじゃあ、今日はこれからどうしますか?」
「出来ればこのまま城塞に行きたいですね。明日になれば、貴族たちの死体が見つかって騒ぎになるでしょうし。もちろん、無理をするほどでもありませんが」
「私は大丈夫ですよ。努君が先導してくれましたし、まだ余裕です」
「では行きましょうか。今夜中に拠点を確保しましょう」
最後に侵入した貴族の屋敷にて、僕と葵さんはそんなやり取りをする。
それから、僕たちはその貴族の屋敷を出て、夜の闇の中警備をかいくぐり城塞付近へと向かった。
城塞の外観は、灰色の石レンガ造りで実に無骨だ。
堀に囲まれており、二か所ある橋のどちらかを渡らないと内部に入れないようになっている。
もっとも、それは普通の人間にとっての話で、僕たちには当てはまらない。
魔法で足場を作ればいいだけの話だからだ。
それから、僕は葵さんにこれからする事を軽く話して、行動を開始した。
僕が城塞への侵入口に選んだのは、城塞の外壁と一体化している監視塔だ。
城壁を登ったのと同じ手順でここに登り、そこから塔の中に入って、ひとまず僕たちは城塞内への侵入を果たす。
ここまでは無問題だが、この先からは要警戒だ。
監視塔を降りた先から地下牢に辿り着くためには、敵の侵入に備えてわざわざ複雑に作られた通路を進み続ける必要がある。
幸い、その構造は全て頭に入っているので、道に迷う心配はない。
曲がり角で敵とばったり遭遇してしまう可能性もあるが、しっかりと足音を聞けばそんな事態は十分に避けられるだろう。
そうして、順調に通路を進んだ僕たちは、階段を降りた先にある地下牢の入り口に辿り着いた。
しかし、その入り口には鉄で補強された木製の扉があり、鍵がかかっている。
ここ以外に地下牢への道はなく、避けては通れない場所だ。
「ここは破壊して無理やり突破します。破壊音で衛兵が集まって来ると予想されますが、邪魔にならない限りは無視して、急いで地下牢を探索しましょう」
「私は隠し通路を探せばいいんですよね」
「ええ。結局、地下牢の隠し通路のことを知っている貴族はいませんでしたし、葵さんの目だけが頼りです。気張って行きましょう」
そう言った後、僕はリビングソードを全力で振るって、無理やり扉を破壊した。
致し方ない事だが、辺りには凄まじい音量の破壊音が鳴り響く。
今すぐという事もないだろうが、敵が集まって来るのは必至だ。
それから間髪入れずに、僕たちは地下牢の中に入り込む。
地下牢の構造は、一本道の左右に一定間隔で牢屋が設置してあるというシンプルなものだ。
さほど広くはないため、探索は容易だと考えていい。
それを証明するかのように、間もなく葵さんは一本道の突き当たりで、石レンガの壁に異常を発見した。
「ここの壁に違和感がありますね。でも、すり抜けたりはしないみたいです」
葵さんの言葉を聞いて、僕は耳を当てながらその壁をコンコンと叩く。
すると、そこから響くような音がした。
「どうやら、向こう側に空洞があるのは間違いないようです。開ける方法も分かりませんし、ここも破壊して突破しましょう。破壊痕は地魔法で塞ぎます」
そう言って、僕は地下牢の入り口の時と同じように、壁に向かって全力でリビングソードを振り下ろした。
すると、がらがらと音をたてて石レンガが崩れ落ち、向こう側に存在した隠し通路があらわになる。
僕は葵さんと通路に入った後、地魔法で岩石を形成して崩れた壁を塞いだ。
こんな偽物の壁はすぐにバレるだろうが、そこは問題ではない。
要は、僕がダンジョンを乗っ取るまでの時間稼ぎさえ出来ればいいのだ。
通路の先に進むと、学校の教室程度の広さの部屋という、既視感のある光景が広がっていた。
例に漏れず、真向かいには漆黒のダンジョンコアが埋まっている。
「では、僕はダンジョンの制圧を始めます。ないとは思いますが、敵が来たら足止めをお願いします」
「はい。努君も頑張ってくださいね」
そう会話した後、僕は壁にもたれかかり、ダンジョンコアにそっと触れた。




