第174話 聞き取り調査
手始めに、僕は各属性の魔法を発動させる。
闇属性の魔法によって、城壁を照らしていた松明の明かりをかき消し。
地属性の魔法によって、城壁を登るための足場を生み出し。
無属性の魔法によって、全身の身体能力を強化するのだ。
その後、僕たちは予定通り城壁を越えると、辺りを見渡して煙突のある大きい屋敷を探し、その屋敷に素早く張り付く。
それから、僕は誰にも見られていないのを確認した後、リビングナイフを煙突の中に侵入させると、付近の窓を開けるように指示を出した。
この世界の開閉式の窓は、内側から単純なかんぬきでロックをしている事が多いので、リビングナイフでも侵入さえすれば簡単に開ける事ができる。
間もなく、カチャリと音が鳴ったのを聞き取った僕は、音が鳴った場所へと向かうと、そこの空けられた窓から屋敷の中に侵入した。
どうやら、僕たちが侵入したのは屋敷の玄関ホールのようだ。
周囲は暗く、人の姿も見当たらない。
だが、煙突に侵入させたリビングナイフを回収した後、耳をすませば遠くで足音が鳴っているのが聞こえてくる。
「遠くにまだ起きている人がいますね」
「見回りの人でしょうか?」
「恐らくは、使用人が寝る前に戸締りの確認をしているんでしょう。せっかくですから、この人に主人の場所を聞き出します。慎重に進みましょう」
小声でそう会話した後、僕と葵さんは足音のする方に向かってゆっくりと歩き始める。
それから、僕は玄関ホールから廊下に入る曲がり角で、廊下の奥にいる女の使用人を発見した。
後ろの葵さんに少し待っているよう、僕は小声で指示を出した後、その使用人にタイミングを見計らって忍び寄る。
そして、十分な距離まで近づいた僕は彼女に後ろから襲い掛かり、右手で強引に口を塞ぎ、左手でリビングナイフを突きつけた。
最初は暴れていたが、ナイフを見せつけて大人しくするように小声で呼びかけると、間もなく大人しくなる。
その後、僕はそのままの状態で使用人を歩かせ、葵さんの方に連れて行き質問を始めた。
喋らせる必要はないため、口は塞いだままだ。
質問をした後、その答えは葵さんに読み取ってもらう。
「一つだけ質問をします。主人の居場所はどこです? 回答は頭の中で思い浮かべてもらうだけで構いません」
「……二階の寝室。具体的な場所はどこですか? ……玄関ホールから二階に登って、右に曲がって直進した先にある一番目の部屋、だそうですよ?」
「結構です。では、この人の処理を済ませてからそこに向かいましょう」
さっきまでと同様に小声でそう喋りつつ、僕はリビングナイフをしまい、空いた左手で使用人の首を絞める。
それから少しして、心臓の鼓動が止まったのを確認した僕は左手を放し、使用人の死体を背に担いだ。
わざわざ絞殺したのは、血をまき散らさないようにするためだ。
「それ、持っていくんですか?」
「ええ。どうせ主人も、城塞の内部構造について聞いた後は殺します。死体はまとめて隠しておいた方がいいでしょう。いずれバレるでしょうが、騒ぎになるのは遅ければ遅いほどいいです」
そうして、死体を担いだ僕と葵さんは聞き出した主人の寝室へと向かい、その中に入る。
そこで、大きなベッドに寝ている貴族と思わしき男を見つけた僕は、死体を床に置いてからその男を叩き起こした。
続いて、ついさっき使用人にしたのと同じような手順で、貴族の男に尋問を始める。
時間はかかったが、城塞の内部構造についての尋問を終えた僕は貴族の男も絞め殺し、死体を使用人のそれとまとめて寝室のクローゼットに隠した。
「それでは、他の屋敷に向かいましょう。ある程度の情報は得られましたが、やはり一人の貴族からの情報では足りません。城塞内部の見取り図でも、丸々覚えている人がいればいいんですがね」
そう言った後、僕たちは寝室を出て元居た玄関ホールへと向かい、付近に誰もいないのを確認してから、再び侵入口の窓を通って外に出た。




