第173話 帝都侵入
帝都とは、交易都市ガルムンドの北東に存在する帝国の首都のことだ。
この場所に関しての情報は、僕が以前交易都市で盗み聞きによる情報収集をしていた時に、いくらか耳にしたのを覚えている。
聞いたところによると、なんでも帝都は二つの区画に分かれているらしい。
一つは、城塞を中心に円状に広がっている上流階級のための区画だ。
主に貴族や大商人が住む屋敷が立ち並んでおり、そういった人向けの高級品店も存在している。
入るには、この区画に住んでいる事を証明する証明書が必要だ。
もう一方は、中流階級以下の人が暮らしている区画だ。
上流階級向けの区画を囲うように存在しており、その区画とは城壁によって隔てられている。
特に変わったところもなく、帝国の一般的な街並みが広がっているようだ。
この中流階級以下の人向けの区画は、特に検問等もないらしいので、僕と葵さんはザルカム坑道を経由して交易都市に向かい、そこから馬車で帝都に向かう事にした。
取り敢えずは、そこでいつものように情報収集を行うのが最適だと判断したからだ。
そうして、昼頃帝都に到着した僕たちは適当な宿屋の一室を借りると、その中で情報収集について葵さんと話し始めた。
「改めて確認すると、僕たちが手に入れたい情報はただ一つ。城塞の構造についての情報です。特に、地下牢までの道のりについての情報は絶対に手に入れなければなりません」
「そのために、努君は城塞の関係者に尋問をするつもりなんですよね」
「ええ、王城に侵入するときも似たような事をしました。ですが、今回は少し話が違います。帝国の中枢である城塞の関係者は、基本的に上流階級です。この区画にはまずいません。つまり、僕たちは警備の厳しい上流階級のための区画で、表立って騒ぎを起こさずに尋問を行う必要があります」
上流階級区画への侵入に関しては、検問を無視してこっそりと城壁を越えればいいので特に問題ではない。
一番の問題は今話したように、区画内における警備だ。
上流階級のための区画であるため、当然この区画では一般のそれよりも厳重な警備体制が敷かれている。
王都のときと同じように、人気がないを場所を選定したとはいえ道端で尋問を行っては、警備に見つかってしまう可能性は大いにあるだろう。
そもそもの話、件の区画に裏路地のような人気のない場所があるとも限らない。
「そこで、僕は今回貴族の屋敷に夜襲をかける事にしました。騒ぎを屋敷の中で完結させ、中にいる貴族から情報を引き出します。必要に応じてですが、恐らく数回は夜襲を行う必要があるでしょう」
「了解です。室内戦は苦手ですけど、尋問なら任せてください。それで、実行はいつですか?」
「今夜です。日が沈んだら闇に紛れて城壁を越えます。それまでは、のんびり帝都の街を見て回りましょうかね」
そうして、僕たちが日が暮れるまでの間、帝都での観光を楽しんだ。
当然、王国とは文化が違うわけだが、それを象徴するかのように帝都には軍旗が飾られているのをよく見かける。
侵略を是とする文化の表れだろうか。
ちなみに、帝国の軍旗は赤い下地に四本足の黒い竜が描かれている。
それからついでに夕食も済ませ、英気を養った僕たちは、ちょうど日が暮れた頃には城壁近くを歩いていた。
「それでは始めましょうか。葵さんは僕の後ろをできるだけ離れないようにしてください」
「はい、移動経路は任せます。私の敵の視線を警戒していますね」
このやり取りの後、僕たちは上流階級区画への侵入を開始した。




