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第170話 詰み

「クソがっ! こんなあっさりと終わるつもりか!? 戦いはまだ終わりじゃねぇだろ!」


 助力もあり、なんとか薬瓶の中の血を飲み干したバルトロは、全身に赤黒いタトゥーのようなものを浮かび上がらせながら、倒れた清水さんに向かってそう叫ぶ。

 

 しかし、返事はない。

 レギナの鎌によって心臓を貫かれた清水さんは、間違いなく死んだのだ。

 その魂は、既に僕が取り込んでいる。


 今にも崩れそうだった拮抗状態は、ここに来てついに崩れ去った。

 相変わらず、帝国軍の兵士たちはゾンビの対処に必死であり。

 バルトロはというと、僕と対峙した状態で、後ろから清水さんの狙撃と、レギナとレークスという加勢が迫ってきている。


 奇策も奇襲も、もはや必要ない。

 後は囲んで叩き潰すだけだ。


 僕は百本全てのリビングナイフを展開し、バルトロに向けて一斉に差し向ける。

 対して、それを見たバルトロは、悔し気な顔で身体の向きを反転させた。


「下がるぞ! 撤退路を確保している連中と合流する! 死に物狂いで道を切り開け!」


 どうやら、バルトロは撤退のために、後方のレギナとレークスを突破する事を選んだようだ。

 

 だが、彼らは上位魔物。

 そこらの魔物と同じように、易々と倒す事はできない。


 大剣を振りかざして突撃してくるバルトロに向かって、レークスは闇魔法の影を伸ばす。

 その影は、バルトロの足を捉えるとまとわりついて拘束しようとするが、血を飲んだバルトロは怪力によって、無理やり突撃を続行した。


 しかし、影は完全に振りほどかれたわけではなく、依然としてバルトロの足にまとわりついており、彼の動き自体は間違いなく鈍っている。

 そこに、大鎌を持ったレギナが立ちふさがった。


「もう諦めたらどうです? どう考えても詰みの状況ですよ、団長殿」

「悪いが、戦いは最後まで楽しむ主義なんだ。それに諦めるにはまだ早えだろ!」


 そう言って、バルトロはレギナを両断しようと大剣を横薙ぎに振るうが、彼女はそれに全く付き合わず、バックステップで攻撃を回避する。

 この後隙に、バルトロの心臓に向かって葵さんの矢が放たれた。


 反射的に身体を捻って、彼は心臓への矢の直撃はなんとか避けたが、代償として鎧を貫通した矢が肩に深々と突き刺さる。

 さらには、そこに向かってバルトロに追いついたリビングナイフたちの追撃が始まった。


 肩関節、肘関節、股関節、膝関節など。

 全身鎧のありとあらゆる隙間に、百本のリビングナイフが殺到する。

 

 取り回しの悪い大剣という武器では、自由に動けない状態で全てのリビングナイフを迎撃できるはずもなく、バルトロは負傷によって膝をついて倒れた。

 

 ただ、偶然にも倒れた先には、一体の死体が転がっていた。

 心臓を貫かれた清水さんの死体だ。


「‥‥‥俺は、戦いさえ続けられれば、別に死体がどうなろうとどうでもいいんだ。悪いな、清水」


 消え入りそうな声でそう言って、バルトロは清水さんの死体に噛みつく。

 おおかた、吸血鬼として血を吸おうとしているのだろうが、それはもう無意味だ。

 正確に言えば、清水さんの死体は、既に死体ではなくなっているのだから。


 殺した直後に、清水さんの死体はレークスの手によってゾンビにさせた。

 アンデットと化した者の血は、とても飲めたものではないだろう。

 見ていれば、バルトロは渋い顔をして、清水さんのゾンビからそっと口を離した。

 

 バルトロが恐らくは吸血鬼だと判明してから、血に関して何かしらの対策をしようとは決めていた。

 その結果が、このゾンビ化による吸血の阻止だ。


 それから、リビングナイフの内一体が、抵抗する力を失ったバルトロの首筋に刃を当てたところで、僕は口を開いた。


「これで終わりです。戦いは楽しんで頂けましたか?」

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