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閑話 清水結希乃の走馬灯

 バルトロの副官として、臨んだ王国軍との戦いで、私は数多くの死を生み出してきました。

 今まで自覚すらしていなかった、己の欲求の赴くままに。

 より魅力的な死体に、より美しい死を求めて。


 敵の誰もが、私を小娘だと侮りました。

 そんな人たちが、私の槍の一振りで引き裂かれて、驚愕と絶望の入り混じった顔で死にゆくのを眺めるのが好きでした。


 バルトロとの戦いの末に敗れて、満足気に、或いは悔しそうに散っていった戦士の死体は、とても魅力的なものでした。

 ですから、私はしばしば気に入った死体を[氷結晶]で氷漬けにして、こっそり拠点に持ち帰りました。


 つきっきりで私が見ていなければ、すぐに解けてしまうような代物ではありましたが、少しでも長く、死体を自分の手元に置いておきたかったのです。

 それに、死体の面倒を見切れなくなっても、バルトロに解凍した死体を渡せば、彼が喜んで処理してくれました。


 バルトロが吸血鬼だという事は、仲間になったときに、実は彼自身から聞かされていたのです。


「死体の冷凍保存、か。ご世間様からしたら悪趣味極まりないだろうが、俺からすれば素晴らしい趣味だ。戦場以外でもまともな血が飲めるなんてな。何? 明日の朝までは観賞用だから解凍しない? ……まぁいい。明日になったらそれの血は飲ませろよ」


 初めて、バルトロの氷漬けの死体を見せたときには、こんな事を言われたのを覚えています。

 それから、戦いの過程で何体かの死体をバルトロにあげたところで、彼からこんな提案をされました。


「清水、俺の眷属にならないか? お前はこれまで、経緯はどうあれ俺に血を捧げてきた。契約を交わせば、血の対価として眷属になり力を得られる」

「‥‥‥それって、私があなたに眷属として縛られたりするんじゃないの?」

「そういう契約の形もあるが、対価があるから原則対等な関係だ。吸血鬼という存在を媒介として、血を対価に力を得る契約をすると思えばいい」

「まぁ、それなら」


 そうして、私はバルトロの副官兼眷属になりました。

 彼は対等な関係と言いましたが、やはり実質的には上司と部下の関係です。


 でも、それでいいと思っていました。

 繋がりさえあれば、私とバルトロ関係性にこだわりなんてありませんでした。


 ‥‥‥走馬灯のように流れたバルトロとの記憶も途絶え、段々と意識が遠のいていきます。

 あの蜘蛛もどきの魔物に鎌で刺されて、力が入らずに倒れて、自分はもう長くないのだろうと、否応なしに理解しました。


 最後に浮かび上がったのは、私たちを罠にはめた篠宮君と五十嵐さんです。


 私にとって、篠宮君たちは初めて人が死ぬ瞬間を魅せてくれた人であり、ある種の恩人でもありました。

 ですから、私は王国とも帝国とも敵対したこの恩人たちを、美しく鮮烈に死なせて、あわよくばその死体を氷漬けにしてあげたかったのです。


 彼らを殺したいと思っていたのは、本当にこんな下らない理由。

 それももう、叶いそうにありません。

 

 人の死でしか、欲求を満たせなかった私は、やはり地獄行きでしょうか?

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