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第169話 目的のために

 奇襲は、予定通り葵さんの遠距離狙撃から始まった。

 それに対して、狙われた清水さんは[氷結晶]で矢を弾くも、その隙に僕が潜伏場所の建物から飛び出し、全身身体強化と無属性のボディーエンチャントを発動させてから襲いかかる。


 清水さんの得物である槍が振りづらい距離まで一気に近づき、双剣の間合いに入った僕は、その顔面に向かって右手の剣を振るった。

 それを、彼女は反射的に右手で持っていた槍の柄で防御するが、続くもう片方の剣による攻撃は防御に失敗。

 彼女の左腕は、切り落とされて宙を舞った。

 

 痛みに悲鳴を上げて、左肩の切断面を右手で押さえる清水さんに対し、僕は追撃を仕掛けようとするが、そこにバルトロのフォローが入る。

 大剣の一振りによって、僕は一時的に清水さんの近くから追い返された。


「ぐぅっ。何かおかしいとは思っていたけど、あなたたちの罠だったのね」

「清水、傷口は氷で塞げ。お前らよく聞け、この街は敵の罠だ! 隊列の後方にいる奴らは城門を確保して、撤退路を維持しろ! 残りの奴らは全員俺について来い。敵のリーダーを叩きつぶす!」

「「了解!」」


 試験運用の時とは違い、穴埋め部隊の指揮官たるバルトロは、僕から注意を逸らさずにそう指示を出してのける。

 奇襲には成功したと言えるが、やはりそう上手くはいかないようだ。

 

「その状態じゃまともな戦力にならん。お前は下がって氷で後ろからの矢を防ぐのに尽力しろ」

「‥‥‥すみません」


 バルトロと清水さんがそう話す中、僕は彼女を逃がすまいと攻撃を仕掛けようとするが、やはりバルトロが割って入ってくる。

 葵さんの狙撃も第二射が放たれたが、腕を失ったとはいえスキルは使えるため、氷を生成されて防がれてしまった。

 

 そうこうしている内に、清水さんは氷で傷口を止血した後、すっかりバルトロの後ろに隠れてしまい、代わりに兵士たちが僕を囲もうと前へ出てくる。

 それを見た僕は、頭の中でレギナとゾンビを指揮するレークスに指示を出した。


 すると、大通り付近の建物から一斉にゾンビたちが飛び出し、僕を取り囲もうとしていた兵士たちも含め、穴埋め部隊を逆包囲して襲い始める。

 そのゾンビたちの中には、死亡した帝国軍の占領部隊の面々もおり、バルトロは何故彼らが失踪したのか気づいたようだ。


「散々やってくれたみたいだな。今度はもう、逃げたりしないよな?」

「さぁ、どうでしょうか? 戦況次第といったところです」

「そうかよ!」


 そう言いながら、バルトロは僕に向かってくる。

 周囲の兵士たちは、ゾンビたちの対応に必死で、こちらにくる様子はない。

 実質一対一の状況だ。


 接近したバルトロは、僕を袈裟斬りにしようと大剣を左上から振り下ろしてくるが、そこに僕は左手の剣を差し込み大剣を滑らせる。

 それで、大剣の軌道を上に逸らした僕は、低い前傾姿勢となってバルトロの懐に潜り込み、股関節の鎧の隙間を狙って右手の剣を突き出した。

 バルトロは咄嗟に、腰を捻って僕の剣を鎧のある場所に当てたが、少なからず痛みはあったようで顔をしかめる。


 一方で、兵士とゾンビたちの方の戦況はどうかというと、今のところは拮抗状態だ。

 しかし、それは穴埋め部隊の兵士たちが精鋭だからこそなんとかなっているのであって、本来ならもう戦線が崩壊していてもおかしくない。


 何せ、数自体はゾンビたちの方が圧倒的に多いのだ。

 長期戦になれば、飲み込まれるのは穴埋め部隊の方である。

 

「なりふり構ってられんな。もう少し楽しみたかったが、さっさと決着をつけさせてもらう」


 そう言って、バルトロは懐から例の血が入った薬瓶を取り出す。

 だが、僕とて今度はその血を大人しく飲ませる気はない。


 僕は外套の中からリビングナイフを取り出し、薬瓶目掛けて投擲する。

 バルトロは手を動かしてそれを避けるが、次は避けた先に葵さんの矢が向かった。


「させない! って、え? 私、なんで――」


 清水さんは、薬瓶に向かう矢を[氷結晶]で防ぐ。

 が、そこに忍び寄る影があった。

 僕がついさっき指示を出した、レギナとレークスだ。


 試験運用の時は、余裕だったので出番がなかったが、彼らは最後の奇襲札として、いつでも動かせるようにとっておいていたのだ。

 僕の指示を受けて、ゾンビに紛れて左右から挟み込むように襲いかかった二人の奇襲は、まんまと成功した。

 

 清水さんが矢の迎撃に気をとられている内に、レークスは闇魔法で周辺一帯の敵の視界を奪い。

 その間に、レギナは鎌を振り回して兵士たちを蹴散らしつつ、猛然と清水さんに向かって突貫していく。

 最後に、狙いすまして振られた鎌は、彼女の心臓を捉えていた。


 その致命傷によって、ごふりと血を吐き出した清水さんは、間もなく地に倒れ伏した。

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